うつ病と認知症の併発
うつ病は認知症のリスクファクター?
- うつ病患者でアルツハイマー病(AD)を発症する危険率(メタ解析によるオッズ比):2.03倍(Ownby RL, et al, 2006 )
- うつ病エピソード1回で1.87倍、2回以上で2.08倍(1,239例25年間のコホート研究)(Dotson VM, et al, 2010)
- うつ病性仮性認知症の9~25%が1年間で非可逆的な認知症に移行し、その頻度は一般高齢者の2.5~6倍高い(Dibie DJ et al, 2002)
- 仮性認知症から認知症へ1年で3%(Murphy E et al, 1983)、2年で12%(Rabins PV et al, 1984)、3年で50%以上(Reding M et al, 1985)、8年で89%(Kral VA et al, 1989)が進展
- 高齢うつ病者では、血漿Aβ40/Aβ42比が高く、ADの前駆状態(Sun X, et al, 2008)
- うつ病は、若年者から高齢者まで、血清Aβ40/Aβ42が高値。高齢者うつ病においては、発症年齢が若いほど高値を示しておりADとの関連が高い(Namekawa Y et al, 2013)
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AD発症リスクは早期発症うつ病は3.76(1.41-10.06)、 晩年発症で2.34(0.82-6.69)扁桃体や海馬の体積は有意な差はなかった。(503名の6年間コホート研究)(Geerlings et al, 2008)
- アミロイドPET([18F] florbetapir)による33例の高齢うつ病患者(76.7±4.2歳)の検討では、Aβ陽性率が後期発症の高齢者うつ病においてより高く、Aβ蓄積の程度は発症年齢と相関していた。(Tateno A et al, Int J Geriatr Psychiatry, 2015)
うつ病から認知症へ移行するメカニズム(推測)
- うつ病になるとグルココルチコイドの分泌増加、血管障害の進展などが起こり、海馬の萎縮、アミロイドβの蓄積、炎症性変化、神経成長因子の変化、前頭・線条体系の異常などが、連続的ではなく、多要因的に関与して、認知症へ移行するのではないかという推測がなされています。
- 抗うつ薬によって、うつ病を寛解させることで、グルココルチコイドの分泌低下、血管障害による認知機能の改善、海馬におけるBDNF増加による神経保護作用、炎症性サイトカインの低下、髄液中のAβの低下などにより、認知症の進行を予防する可能性があります。
高齢者うつ病と認知症との関連
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高齢者うつ病と認知症との鑑別は重要ですが、うつ病から認知症への移行も少なくありません。また認知症においてもうつ病が出現します。高齢者うつ病はアルツハイマー型認知症を含む変性性認知症や血管性認知症を含む血管障害とも相互に関連した病態と考えられます。とくに血清Aβ40/Aβ42の検討やコホート研究では若年発症の高齢者うつ病はADとの関連がより強く、高齢発症の高齢うつ病者は、血管性うつ病という説明もしたように、血管障害との関連がより強いのではないかと考えられます。しかし最近のアミロイドPETの研究では、晩発性うつ病でAβの蓄積が高いという結果が示されており、ADによる晩発性うつ病の発症という可能性など、さらなる検討が必要です。