ADHDの病態仮説
遺伝要因と環境要因
低ドパミン仮説
実行機能・報酬系回路障害仮説
- 「しなければならないことはわかっていても、その通りにできない」という実行機能の障害(背外側前頭前野)と、報酬があっても待つことができないために衝動的に代替の報酬を選択したり、主観的な時間を短くするよう注意を他の物にそらしたり、代償行動をとる報酬系の障害(側坐核、眼窩前頭前野、前帯状回)も提唱されている。
Tonic/phasic model
- ドパミンの神経細胞体の発火に依存して神経終末からドパミンが放出されるシステムをphasic dopamine response、一方、細胞外の定常レベルに存在するドパミンが前シナプスのドパミン自己受容体を刺激して、ドパミン放出に抑制をかけるシステムがtonic dopamine responseと呼びますが、そのバランスが崩れて、tonicが低下して、phasicが相対的に更新した状態であるという仮説です。
治療
治療目標は、ADHDの3つの主症状が完全になくなることではなく、それらの症状を軽減させて、学校、家庭、職場における悪循環的な不適応状態が好転して、ADHD症状を自己の人格特性として折り合えるようになることです。
小児期
成人期
- 良き理解者、支援者の獲得
- 不適応状態を好転させ、自尊感情を取り戻し、自己の特性として折り合えるような環境設定
- 対処技能の獲得
- 継続的な学習と必要に応じた薬物治療
- 行動特性の理解
- 行動特性の肯定的受入
- 行動特性の是正努力
- 医師患者関係だけでなく、本人を取り巻く家族や職場の方々の支援体制
薬物治療
3-4歳の子供が多動で落ち着かなくても当たり前ですが、6-7歳になっても同様の状態が続くようならADHDが疑われます。また、治療が必要かどうかは、症状のために不適応に陥っているかどうかによります。
- ドパミントランスポーター(DAT)とノルアドレナリントランスポーター(NET)に結合して、モノアミンの再取込みを阻害して、シナプス間隙のモノアミンを上昇させます。
- DATへの親和性がNETより10倍高く、ドパミンにより選択的で、皮質下のドパミンを上昇させて症状を改善させる。作用部位は、前頭皮質、線条体、側坐核で、実行機能と報酬系の両回路の調節に関わっています。
- 副作用としては、食欲不振、不眠、頭痛、腹痛、チック症状などがあります。
ストラテラⓇ(アトモキセチン)
- 選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬。
- ノルアドレナリン系神経は、注意を必要とする課題を行う過程に関与し、感覚刺激に反応するための重要な役割を前頭前野で行っています。前頭前野ではNETに比べてDATが少ないためにドパミンも非特異的にNETから再取込みをされますので、ストラテラは、ノルアドレナリンだけでなくドパミンの濃度も増加させます。
- 副作用としては、悪心、食欲不振、頭痛などがありますが、10日前後で軽減消失することが多い。
- 効果発現までに、3-4週間程度要することが多い。
- 線条体や側坐核のドパミン濃度に影響を与えないことから薬物乱用にはなりにくい。
インチュニブⓇ(グアンファシン塩酸塩)
- 明確な作用機序は不明ですが、後シナプスのα2Aアドレナリン受容体の選択的刺激作用により、イオンチャネルを閉じて情報伝達物質の漏れを防ぐ働きがあります。
- 非中枢刺激薬であり,前シナプスからのドパミンとノルアドレナリンの遊離促進作用、再取り込み阻害作用はありません。
- もともと高血圧の薬であり、交感神経の働きを抑える作用があります。
- 多動性や衝動性により有効であり、情動調整作用も期待されます。
- 副作用としては眠気と血圧低下に注意する必要があります。
- リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾールなどが問題行動に対して有用であるとの報告があります。
- 三環系抗うつ薬では、ノルアドレナリン再取込み阻害作用のあるイミプラミン、デシプラミン、ノルトリプチリンの有用性が報告されています。
- SSRI、SNRIに対する報告は少ないが、二次的なうつ状態に対しては、使用されています。
α2ノルアドレナリン受容体作動薬
- 降圧薬のカタプレスⓇ(クロニジン)は、チック障害を伴うADHDに対する有効性が報告されています。
(臨床精神薬理ハンドブック第2版, 2009, 医学書院を一部参照)