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マイヤーの思想的背景と業績

マイヤーの思想的背景と業績

  • マイヤーの精神医学は、ひとくちに常識の精神医学と呼ばれる。精神障害を、生物-心理-歴史-社会という多次元の要因から成る統合体としての個人が、環境に対する適応に失敗して起こした反応であるとする彼の考えは、いかにもこのような呼称にふさわしい。
  • マイヤーが滞英中に影響を受けたのが、トマス・ハクスリーとジャクソンである。
    • 著名な生物学者であったハクスリーは、ダーウィンの進化論の擁護者で、哲学の上では不可知論者、実証主義者であった。彼は、全有機体が環境にどのように範合するかを生態学的アプローチによって研究し、科学は訓練された常識を適用することから成り立つと説いた。
    • ジャクソンは、進化論的方法と認識の相対性を主張して絶対的なるものに対する不可知論の立場をとったスペンサーの哲学を導入して、中枢神経系の働きを理解するための自己の理論をつくり上げた。彼の中枢神経系の進化と解体に関する理論は、神経解剖学者としてのマイヤーにヒントを与え、さらに重要なのは、ジャクソンの統合レベルの概念が、人間の行動は象徴のレベルで統合されるという基本的な精神生物学的概念への道を開いたことである。
  • アメリカに渡ったマイヤーは、プラグマティズム創始者といわれるパースやその普及に努めたウイリアム・ジェイムズ、また、同じくプラグマティズムを大成して、新しい行動的ヒューマニズムに立脚して進歩主義的教育を創始したジョン・デューイ社会学者のミードやクーリーなどからも影響を受けている。
    • これらのプラグマティストたちの基本的な考えの一つは、デカルト流の自己充足的な「心」についての諸概念を明確に否定したことであろう。
    • 心とか精神とかいっても、それは自然の一部である人間と無関係に存在するわけではない。
    • 人間の身体や欲望や、いろいろの要求に無縁な心などというものはありえない。人間は、みずからがそこに生きている環境とのかかわり合いのなかで進化するものである以上、心も環境に対する挑戦や適応を通じて発展する、きわめてその意味では実用に則したものである。
    • 人間がユニークなのはその思考作用によるのであるが、この考えるということはとりも直さず、人間が環境に適応したり、苦境に挑戦し、そこから脱却するための最も重要な手段である。
  • パースは、環境から分離された思想が、解決を要するような問題を生み出すというような考えにはとうてい同調できなかったと言われる。考えるということは、なにか抽象化された理想を追求するという、いわば思考のための思考、あるいは「真理」の追求に終わるのではなく、現実の人生に働きかけて具体的な成果をあげたり、ときに必要とあれば、世界を変える一助としての機能を果すようなものである。
  • 精神的な働きとしての心、意識、あるいは論理的思考とか呼ばれるものは、この意味で行動とまるきり別のものではなく、「想像力の生み出した試行錯誤」であり、一種の「実験に基づく策動」であるといえるかもしれない。
  • この立場では、環境に対する有機体の適応や挑戦がすなわち経験であると考え、思考や意識、理性はこの経験過程の中から生まれるものであり、それら自身が同時にまた、適応や難局を打開する働きを持つものとして理解される。経験は単に理性の構成要素にすぎないものではなく、むしろ逆に、理性が経験の素材あるいは構成要素になるという転換がここでは行われているのである。
  • 近代科学における実験による方法を、現実の日常生活のなかに当てはめようと努め、日々の具体的経験の中で科学の方法を生かすことを目標としたという意味で、プラグマティズムの立場は科学の実験的方法を、狭い学問の世界や実験室の中から生活の現実にまで拡大していった。
  • プラグマティズムは、旧大陸に別れを告げて独立した文化を形成しつつあったアメリカの思想的表現であり、合衆国の発展過程の中で、役に立つということがもつとも尊重されたという歴史的事実から生まれてきたものである。マイヤーはもともと思索的な傾向の人であったようだが、実際に生きている人間がどのように生活すべきかという現実の問題から縁遠い、観念論的傾向の強いヨーロッパ哲学にはなじめなかった。
  • 真理の基準は、それがどれほど実生活に役立つかによって決定され、知性は人間や社会の直面する問題を解決するための有益な道具であるが、工夫の才や人間の努力によって自然は変えることが可能であり、われわれが必要とするものを手に入れることができるというアメリカ的な多元論的、実用主義的な考えは、このようなマイヤーの体質に合ったものということができる。
  • 彼のもともとの思考や態度は、このようなアメリカ文化の洗礼によって、より明確かつ具体的なものにしあげられていったであろうことは疑えない。「無益なパズルはよけて通る方が賢明」であると確信したり、精神障害の説明に「なにかほかのもの」を求めて探し歩くことをやめたマイヤーは、まさにこのアメリカ的伝統の体現者であるといえるだろう。
  • マイヤーの精神医学における功績は、精神生物学的アプローチの創始、パーソナリティーの発達の基礎となるような発生的、力動的諸力が個人の生活史の中にこそ発見できるという考え方の提出、精神衛生運動やチャイルド・ガイダンス・クリニック、あるいは患者のアフタケアや精神医学的ソーシャルワークなどの社会精神医学、あるいは地域精神医療面での活動など、まことに多岐にわたっている。

(近藤喬一:現代精神病理学のエッセンス-フロイト以後の代表的精神病理学者の人と業績-参照)