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クラインの技法と理論

クラインの技法と理論

クラインの技法

  • クラインは、1920年頃から、児童に対する精神分析療法をはじめた。一方、S・フロイトの末娘アンナ・フロイト(Anna Freud、1895- 1982)も児童治療を行っていた。成人の神経症患者を対象にはじめられた精神分析の技法を児童に応用するにあたっては、当然、なんらかの修正が必要であった。クラインも、A・フロイトもともに、児童にはまだ成人のような言語による表現やコミュニケーションの能力が備っていないことから、自由連想法を用いることをせず、児童の遊びを介して治療者との交流をはかる方法、つまり遊戯療法を行った。この限りにおいては、両者とも共通の方法を用いていたことになる。しかし、その実践にあたっては、内容的に大きく異なっており、双方の間で激しい論争がはじまったのである。
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    メラニー・クラインとアンナ・フロイト

 

A ・フロイト

  1. 児童が自発的な治療動機をもたないとの理解にたって、分析者が児童にとって現実的に有用な存在であることを印象づけるなど児童に特殊な導入技法の必要性を強調した。
  2. 家族の積極的な治療参加を必要なものと考えた。
  3. 児童は転移神経症を形成し得ないと考え、成人の場合のように分析者が中立性を保って、患者の精神内界をそのまま写し出すスクリーンとはなり得ないことを主張した。
    むしろ陽性感情転移の積極的な助長につとめるなど、成人の場合に比して、現実的な環境要因を重視した治療技法上の修正をとなえた。

 

クライン

  1. 児童の遊びや言語の内容は、成人の自由連想の場合と同様な技法、つまり治療者が中立性を保ちつつ解釈することができると主張した。
  2. 特殊な導入技法の必要性を否定した。
  3. 家族の治療参加も重要でないとした。
  4. 児童も成人と同様な転移神経症を発展させる能力があると考えた。
    など、あくまで児童の精神内界要因を重視した治療態度を保つことを強調した。

 

  • クラインが、A・フロイトとの間でたたかわせたこの有名な論争は、たんに児童の治療についてのみにとどまるものでなく、後に精神分析全体の学問的な歴史上でも、重大な意味を持つようになった。
  • クラインは児童分析技法を実践した経験から、次第に独自の人格発達理論や精神病理学を発展させて、クライン理論を展開し、それらがクライン学派や対象関係学派と呼ばれる精神分析の新しい流れの基礎になり、後に成人の神経症精神分析技法にも、必然的に反映されるようになった。
  • クライン学派は、成人の精神分裂病患者に対しても、神経症患者に対する精神分析療法の場合と基本的には同じ技法、つまり、分析医は中立性を守りながら、ひたすら患者の抵抗と転移を解釈するという原則を遵守する態度が明瞭である。
  • これに対してA・フロイトやフェダーンにはじまる自我心理学者達による境界例・精神病治療の場合には、自由連想法を用いず、また陽性感情転移の分析や転移性神経症(精神病)の喚起を放棄して、神経症者の場合のような無意識の意識化、洞察をめざした解釈よりも、再抑圧をめざした支持的な方向がとられるのが一般的である。
  • クライン学派と自我心理学派との間にみられる成人精神病患者に対する治療技法上の対照的な相違は、先に述べた児童治療におけるクラインとA ・フロィトの論争がそのまま反映していると理解することもできる。
  • クラインもA ・フロイトもともに学位をもたない女性の精神分析家であり、この2人が後の精神分析の諸学派が発展していくにあたっての分岐点の役割りを果したことは、感慨深い事実である。

クラインの理論 

クラインの理論体系の中でとりわけ重要な意味をもっているのは、以下の4点である。

 

1.無意識的幻想

  • クラインは、自分が経験した臨床的な諸現象を記載するのにあたって、S・フロイトの本能論的な用語をそのまま用いた。この限りにおいては、彼女はフロイトの本能論を超えるものを持たなかったことになる。しかし、彼女の臨床活動の中には、フロイトによっては明確にされなかった新しい視点がいくつか含まれていた。その第一は、乳幼児がそれまで考えられていたよりも大変活発な無意識的幻想を抱く能力をもっている事実を見出したことである。
  • クラインは、人間の精神機能のひとつとして、そのときどきの本能衝動のあり方、置かれた外的・現実的な環境、対象関係の特徴を中心とした人格の発達程度などによって、さまざまに異なった無意識的な幻想を抱く事実を見出した。
  • この無意識的幻想は、人間一人ひとりに普遍的、一般的に存在するものであり、それは本来無意識的なものであるから、日常意識することはできない。しかし、無意識的幻想の存在、その内容は、他の多くの無意識的な諸現象と同じように、夢や精神分析を介して知ることができる。
  • たとえば、被害的な色彩が強く妄想的な特徴を有しているものか、あるいは、抑うつ的なニュアンスが強く償いの精神力動が認められるか否か、などによって個々の精神的な特徴が決定される。また、外界の客観的現実の認識が無意識的幻想によって大きく歪められてしまっているか否か、などによってもその個人の精神的な特徴が左右される。
  • 人格の発達がまだ未成熟な水準にとどまっていて、外界の現実と精神内界の出来事とが充分に区別されていない乳児などの場合には、無意識的幻想の中での出来事は、現実に生起している事柄として体験される。
  • たとえば、実際には乳房を口にしていなくとも、自分自身の指をしゃぶったりしながら、寝つこうとしている乳児は、自分が乳房を口にふくんでいるという幻想を持ち、主観的にはそれを現実に生じているものとして体験していると考えられる。
  • 乳児が乳房を吸っているという幻想をもつことが、実際には乳を与えられていないという外的な現実からも、そのために自分自身が欲求を満たすことができないでおり、不快を感じているという内的な現実からも、自らを防衛しているわけである。
  • 反対に、空腹で乳を欲している乳児が、いざ実際に母親から乳房を与えられても、かんしゃくを起こしたように泣き叫びつづけて、乳を飲もうとしないような現象はしばしば観察される。このような場合、クライン学派では、乳児は乳房を攻撃し破壊しつくしてしまったとか、反対に乳房が自分を攻撃しているとかいう幻想をもってしまって、その幻想が現実の認識を大きく歪めてしまっていると考える。
  • このように無意識的幻想は、個体の現実への反応の仕方に影響を及ぼすとともに、現実からも影響をうける。現実的に良い環境で恵まれ充足した体験を繰り返す場合には、被害的な内容の無意識的幻想の力はだんだん弱まって、内的な安定性の成長につながるが、不満足な環境にさらされて不安を体験することの多い乳児は、被害的、攻撃的な幻想をますます助長されてしまう。
  • 早期乳幼児期の人格発達過程における無意識幻想の存在と、果す役割りを明確にしたことが、その後、成人神経症者や精神病者の精神病理において、無意識幻想が果している機能の解明へと進展し、成人息者の精神分析療法においても、患者が現在その場でどのような無意識的幻想を持ち、彼の意識的な言動や症状にどのような関係をもっているか、それらがどのように過去の対象関係を反復・再現しているものであるかを理解することを重視するという治療技法的な発展を生んでいる。
  • 彼女は、この幻想が構成される重要な役割りを果すものとしての内的な対象への認識を持つに至った。内的対象とは、外界に客観的に存在する対象とは別個に、本能の投影やとり入れなどの機制を経て精神内界にできあがる表象である。この内的対象の概念は、後に対象関係論の発展過程で鍵概念のひとつになる。

2.態勢

  • 態勢とは、精神の特定のあり方を意味し、不安、防衛機制、対象関係などによって特徴づけられる。クラインは態勢を妄想的・分裂的態勢および抑うつ的態勢とその躁的防衛ないし躁的態勢とに区別した。
  • 周知のように精神分析的な人格発達論では、一般に、口愛期―肛門期―男根期といった生物学的な本能の発達段階に対応した理論構成がなされている。態勢もある意味では発達の段階を意味しており、具体的には生後1年ないし1年半位にあたる口愛期の前半が妄想的・分裂的態勢に、後半が抑うつ的態勢に相当する。しかし、クラインは、それらが口愛期のように一定の時期をすぎると終ってしまう一過性のものでなく、一生の間ずっと存在しつづける精神的なあり方であることを強調するために、時期とか段階という用語を用いることをさけて態勢という言葉を用いたのである。
  • この態勢の考え方は、本能の発達段階の考え方に比して、内外の対象とのかかわりの中における自我の体験のあり方の特徴を基礎にした精神発達論であり、彼女がフロイトの本能論をこえたあらたな精神発達論を展開したことになる。
  • 彼女が本能論的な用語を用いながらも、その臨床的な経験に基づいた理論構成の過程では対象関係論的なあらたな考え方を発展させていたことが認められる。このような態勢が治療者との間で再現されるという認識の上に立った治療技法もまた、対象としての治療者の認識を含むという意味で対象関係論的な治療技法の基礎をつくったのである。

 3.早期防衛諸機制

  • フロイトエディプス・コンプレックスを重視し、いわば父中心の理論を発展させたのに対して、クラインは最初の対象としての母親の持つ意義を重視した。クラインはこの早期母子関係の中で活発にはたらく分裂、投影、とり入れ、同一視などの防衛機制の解明につとめた。それまで、発達段階としてはエディプス期を、防衛機制としては抑圧を中心に人格発達や精神病理の解明を重ねてきた精神分析に、クラインは、抑圧が可能になる以前の発達段階、とくに1歳以前の乳児と母親との関係においてはたらく分裂を中心とした防衛諸機制と、それをめぐる精神病理学を提出した。
  • クラインが、すでに解明されていたとり入れによる同一視に加えて、投影によっても自己と対象の同一視が生ずることを明らかにして、投影性同一視なる用語・概念を提出したことは、良く知られている。これらの早期諸防衛機制の理解は、抑圧や反動形成など、発達の後期にみられる防衛機制に比して、それ自体対象への投影、対象のとり入れ、対象との同一視である点で、まさに対象関係論的であったばかりでなく、精神分裂病躁うつ病などの精神病理学にとって、欠くことのできないものになったのである。

 

4.早期エディプス・コンプレックス超自我形成

  • エディプス・コンプレックスはエディプス期、すなわち4~5歳頃に生ずる精神力動であるというのが精神分析における一般的な考えである。しかし、クラインは人格発達のもっと早期、すなわち、抑うつ的態勢が活発な生後6か月前後の乳児が、すでに両親の間のつながりに気づきはじめて、ある種の精神力動をはたらかせることを見出した。
  • この早期のエディプス・コンプレックスは、エディプス期の生殖器をめぐるもののみでなく、口愛的なものを中心とした前生殖器的な特徴にいろどられたものであることが特徴である。
  • この点に関連して、超自我がエディプス期における去勢不安を経てはじめて形成されるという考えに対して、クラインは、妄想的・分裂的態勢における悪い内的な対象が超自我の先駆となることを認めて、発達早期の超自我形成について、独自の主張をしたのである。

(岩崎撤也:現代精神病理学のエッセンス-フロイト以後の代表的精神病理学者の人と業績-参照)