向精神薬による体重増加
向精神薬の副作用で、最も患者さんが苦痛に感じる副作用の一つに体重増加があります。
もちろん食欲がなくて、痩せが目立つ場合には、食欲が改善することは望ましいわけですが、食欲不振がそれほどないのに、食欲が出すぎて過食になったり、どんどん体重が増加することは、耐えられない苦痛になることもあります。
比較的高い頻度で利用されている薬剤の多くは体重増加を起こします。その機序は、体液の貯留、食欲の刺激、または代謝の変化など多様なことが考えられます。
とくに、オランザピン(ジプレキサⓇ)やミルタザピン(リフレックスⓇ、レメロンⓇ)などは初期にしばしば、時には異常なほどの過食や体重増加を引き起こし持続させることがあります。非定型抗精神病薬の中では、アリピプラゾール(エビリファイⓇ)が体重増加の少ない薬剤です。SSRIも最初は体重減少が起こることもありますが、その後徐々に遅れて体重増加を来たし、食事療法や運動療法が必要になることもあるわけですが、それでは減量できないことも少なくありません。SSRIの中ではパロキセチン(パキシルⓇ)が、抗コリン作用があるため体重増加を起こしやすい薬剤です。また、わが国では、幅広い疾患で、胃潰瘍の治療薬であるスルピリド(ドグマチール、アリビット、ミラドール)が、食欲増進作用を期待して処方されることがありますが、スルピリドは、プロラクチンの上昇による月経不順や月経停止、乳汁分泌などが起こりやすく、高齢者では薬剤性パーキンソニズム(振戦や動作緩慢など)が出現しやすいため注意が必要です。
すべての人において安全に食欲を抑える薬剤はまだありません。
対策として、他の薬剤への変更が必要な場合もありますが、よく使用されるのは、漢方薬の防風通聖散で、脂肪代謝の促進と便通や利尿を促進します。また、適応外ですが、抗てんかん薬であるトピラマート〈トピナⓇ〉を1日25~200 mg、あるいはゾニサミド〈エクセグランⓇ〉を1日50~150 mg服用することで、食欲が抑制され、カロリー摂取の増加による薬剤性体重増加を改善させるのに有効であることが報告されています。
トピラマートは、AMPA型グルタミン酸受容体の選択的阻害薬で、多面的な薬理作用を有する非ベンゾジアゼピン抗てんかん薬で、本邦においては、他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法としての適応のみですが、様々な可能性が報告されているユニークな薬剤です。
抗躁作用のような気分安定作用は認められませんが、体重増加抑制効果のほか、アルコール使用障害、禁煙、行動嗜癖、怒りのコントロール、リストカットなどの自傷行為などに対する効果も報告されていいます。もちろん過食症に対しても有効であることが示されています。副作用としては、傾眠、めまい、味覚異常、抑うつ症状などのほか、自殺念慮の悪化、腎・尿路結石などが出現することがあり注意が必要です。