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脳卒中後うつ病と地域医療連携

脳卒中うつ病の現状

わが国において脳卒中は、年間約30万人が発症し、有病者数は300万人を超えていることが推測され、介護が必要な身体障害の原因の第1位であり、国民病とも言われています。

脳卒中うつ病は、脳卒中患者さんの約3割に発症し、認知機能の悪化、日常生活動作の回復遅延、死亡率の増加を引き起こしますが、適切な介入や治療により予後は改善されます。しかし、脳卒中後の落ち込みは当然なこととして見逃されることが多く、いまだにその対策は十分とは言えません。

脳卒中うつ病への関心と日本での取り組み

私は1999年から1年余りの短期間ではありますが、Iowa 大学医学部精神科のRobert G. Robinson教授のもとで脳卒中後のうつ病認知障害についての研究指導を受ける機会を得ました。

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Robinson教授はCornell 大学を卒業後、1973年からNIMH神経薬理学研究室、1975年からJohns Hopkins大学に所属して、脳損傷ラットを用いた大脳半球の左右分化の研究などをNatureやScienceに発表し注目されました。

1990年から2011年までIowa 大学医学部精神科の主任教授として精神医学の臨床、研究、教育に従事していますが、自らの主要なテーマは一貫して脳卒中や脳外傷による臨床神経精神医学です。

私が留学した時期は、精神科には「故障した脳(The Broken Brain)」の著者であるNancy Andreasen教授神経内科には「生存する脳(Descartes' Error)」の著者であるAntonio Damasio教授という2大巨頭が在任していて、とても刺激的でした。

Robinson教授は、「私は脳卒中うつ病で治療を受けずに苦しんでいる人が1人でもいる限り、この仕事を続けようと思っている。君は日本で脳卒中うつ病の仕事を先頭に立って続けて欲しい」と言われ、ご自身の著書であるThe Clinical Neuropsychiatry of STROKEを手渡されました。

帰国後「脳卒中における臨床神経精神医学(2002, 星和書店)」として監訳させて頂き、第2版(2013)も監訳出版することが叶いました。

現在勤務をしている病院においては、当初から脳神経センターの回診に週1回心理スタッフを加えさせて頂き、脳卒中うつ病を中心とした精神科的な関わりを続けてきました。最近では脳神経センターの看護師が脳卒中うつ病のスクリーニングを実施し、身体化の主治医も精神科的な問題について強い関心を持つようになり、メンタルヘルス科(精神科)との連携強化がなされています。

地域医療連携の重要性

脳卒中治療においては、予防、急性期治療、後遺症・合併症に対する総合的医療が必要であり、脳神経外科神経内科、リハビリ科、精神科などの連携とともに、がん患者に対する緩和ケアチームと同様に看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士作業療法士臨床心理士ソーシャルワーカーなどの多職種によるチーム介入が必須です。

患者さん、ご家族、医療スタッフが情報を共有し、患者さんのステージに合わせた適切な援助を提供するためには、脳卒中地域医療連携パスなどを用いた地域ネットワークの構築も不可欠です。

千葉県においては2010年より、千葉県共用脳卒中地域医療連携パスが運用されており、私は、2012年から3年計画の「身体疾患を合併する精神疾患患者の診療の質の向上に資する研究」という厚生労働科学研究(主任研究員:伊藤弘人)のなかで、脳卒中うつ病対策に着手し、2014年4月より、千葉県では医療連携パスのリハシートの中に脳卒中うつ病の評価項目(運用手引きではPHQ-9での評価を推奨)が組み込まれ運用が開始されています。

本来であれば、図に示したように脳卒中患者さんのどのステージにおいても、うつ病評価が必要ですが、今後の課題です。

このような取り組みが全国的に展開されることを望みますが、各都道府県における脳卒中地域医療連携協議会への精神科医の関わりが少ないのが現状です。

今後、脳卒中に対するチーム医療が重視される中で、精神科医が積極的に関与していくことが重要です。

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