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サービンの役割理論

サービンの役割理論

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サービン(Theodore Roy Sarbin, 1911–2005)
  • サービンは社会心理学の立場から変性意識説の非妥当性を最初に表明した。彼はミードが提唱した役割理論(the role theory)によって催眠を分析し、弟子のウィリアム・コウとともに、催眠現象は被験者が「催眠にかかっている人物」という役割を取得すること(role taking)によって説明できるとした。
  • 催眠でみられる反応は心的解離や自我退行によるものではなく催眠状況に置かれた被験者が、その場に「適切な反応」を示すことによって生じた現象に他ならない。「適切な反応」とは、被験者の催眠に対する知識や判断、認知や空想スキル、催眠者からの要求など数々の状況および認知要因によって形成された観念の表出である。それゆえ被験者の催眠反応は「催眠にかかった」という認識に基づいた行動である。こうした行動を取ることは、あらかじめ決められた役割を受け入れることに等しく、これを役割取得(ロールテイキング)と呼ぶ。
  • 「ロールテイキング」は、役割を受け入れて自分のものにすることであり、役割を演じる「ロールプレイ」とは本質的に異なることを認識しなければならない。

 

催眠の役割取得には次の要素が必要である。

  1. 役割の位置づけ
  2. 自己と役割の一致
  3. 役割に対する期待
  4. 役割に必要とされるスキル
  5. 役割の要求
  6. 周囲からの反応強化

サービンは、催眠反応の非自発性について、役割理論では「擬似公式」という社会心理学の視点から説明している。非自発性は役割取得の過程において、被験者は「催眠の行動は自然発生するものであり、自分の意志によるものではない」という役割期待を抱いた結果として起こる反応とみなされる。体験された非自発感の強弱は、役割取得に必要とされる他の要素によって決定され、被験者の期待がなければ非自発感は生じない。

サービンは、「生物的関与」という概念を補充し、これは「様々な生理的測定によって観察できる生物全体としての機能」と定義し、役割取得は、単に被験者の心理状態だけでなく、それに呼応する「非自発的な」生理機能の発生や変化にも影響を及ぼすと説明している。

このように、役割理論や社会認知理論による非状態論派が、新解離理論や心的退行理論といった状態論派とは対照的な催眠理論を展開していることは明確であろう。

(高石昇、大谷彰:現代催眠原論、金剛出版、2015.参照)