therapilasisのブログ

北総メンタルクリニック 院長の情報発信

うつ病

新しい抗うつ薬、トリンテリックス®について

ボルチオキセチン(トリンテリックス®) うつ病治療薬として、2013年に米国及び欧州で承認され、2019年日本でも承認され、2019年4月時点では世界80カ国以上で使用されている。 これまでにない3番目の新しいタイプの抗うつ薬 再取込み阻害薬 SSRI(選択的セロ…

SSRIによる性機能障害

SSRIによる性機能障害 多くの向精神薬の使用に伴い、さまざまな程度の性機能障害が起こり得ます。 抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)服用中の患者さんのなんと50~80%が、性欲減少、射精・勃起障害、女性におけるオルガズムの抑制などの…

うつ病の分子神経生物学

うつ病の分子神経生物学 (Krishnan V, Nestler EJ. The molecular neurobiology of depression. Nature 2008; 455: 894–902.) うつ病の神経回路 情動制御は、視床、扁桃体、海馬を含む大脳辺縁系と背外側前頭前野、眼窩前頭皮質、前帯状回を含む前頭前野が…

抗うつ剤神話の憂うつなジレンマ

抗うつ薬は、うつ病に対してどこまで効果があるのでしょうか? Newsweekの2010年3月10日号で、「抗うつ剤神話の憂うつなジレンマ」という記事が載せられました。 (Kirsh I. et al. PLoS Med., 2008). 英国ハル大学のアーヴィング・キルシュ教授らの研究チ…

がんとうつ病

がんとうつ病 がんの告知や再発、病状進行などのストレスからうつ病や適応障害が起こります。 がん患者におけるうつ病有病率は、13~20%(Lancet Oncol 12, 2011) うつ病になると死亡リスクが、1.25倍(Cancer 115, 2009) 「がん=死」を意識しますので、…

不安障害とうつ病の併存

不安障害患者におけるうつ病の併存率(生涯) パニック障害、強迫性障害、社会不安障害等の不安障害は、うつ病の併存率が高い疾患です。 うつ病患者における不安障害の併存率 アメリカの疫学調査National Comorbidity Surveyによると、うつ病患者さんの58%…

心筋梗塞とうつ病

心筋梗塞後のうつ病の頻度 心筋梗塞を起こした患者283名に対して、梗塞発症後8~10日目に抑うつ状態のインタビュー調査を実施 心筋梗塞後には、軽症を含めると45%もの人がうつ病を併発します。 うつ病の有無による心筋梗塞後の予後 うつ病を合併した心筋梗…

糖尿病とうつ病

糖尿病患者のうつ病有病率 糖尿病とうつ病の併発について調べた39の研究をメタ解析により統合した結果 糖尿病患者のうち、うつ病を併発している人は4%、うつ病を併発している疑いがある人は31.0% 糖尿病とうつ病は互いの発症・経過・転帰・予後に影響し合う …

3Dの鑑別

3Dの鑑別 認知症(Dementia)、うつ病(Depression)、せん妄(Delirium)の鑑別は、非常に重要です。 認知症とうつ病(仮性認知症)については、以下で詳しく説明しましたが、うつ病の場合には抗うつ薬治療で改善しますので、その鑑別は重要ですが、必ずし…

うつ病に対する運動療法

うつ病に対する運動療法 うつ病の治療は休養が重要ですが、軽度から中等度のうつ病では、ある程度の有酸素運動が、症状の改善や再発の防止に効果的であるという報告が相次いで出されています。 うつ病に対する運動療法の有効性(Northら, 1990) 最大強度80…

高齢者うつ病の治療

高齢者うつ病の薬物療法 高齢者や身体合併症がある場合には、副作用が出現しやすいため、どの薬剤も低用量から開始し(通常の初期用量の半量からでも良い)、増量も副作用に注意して緩徐に行う必要があります。 効果が不十分なときは、忍容性が許す限り、十…

うつ病と認知症の関連

うつ病と認知症の併発 アルツハイマー病の40~50%に抑うつ気分、10~20%にうつ病が合併(Wragg RE et al, 1989) 血管性認知症の60%にうつ症状がみられ、27%にうつ病が合併(Cummings JL et al, 1987) アルツハイマー型認知症の42%、脳血管性認知症の3…

うつ病と認知症との鑑別

認知症とうつ病の仮性認知症との鑑別 高齢者のうつ病は、思考抑制などが強くなると仮性認知症といって、認知症と同様な症状を呈することがあります(10~30%)。仮性認知症の場合には、抗うつ薬治療などでうつ症状が改善すれば認知症様の症状も改善しますの…

高齢者うつ病の臨床的特徴

身体症状へのとらわれが目立ちます 痛み、めまい、胃腸症状、呼吸困難、動悸、排尿困難、頻尿、便通異常などの身体的不定愁訴が中心で、抑うつ心性はあまり目立ちません。 ⇒仮面うつ病(masked depression) プライマリケアで診療される患者の10~18%にうつ…

死別反応とうつ病

DSM-ⅣからDSM5になっての変更点 DSM-IV 死別反応を超えるものを、2ヶ月以上続くもの、または重度の特徴を持つものと定義。 DSM-5 2ヶ月や症状などの人為的な線を引かず、死別反応の範囲か否かは、臨床的な判断にゆだねられました。 この変更に当たっては、…

高齢者うつ病の多要因性と適切な治療の必要性

高齢者ではいろいろなことが要因になってうつ病になります。 うつ病の発症要因としては、遺伝・生育的な要因があります。性格、思考・行動パターン、ストレス脆弱性などが背景にあり、そこに心理社会的要因や身体的要因が絡まってうつ病を発症します。 高齢…

非定型うつ病の増加

非定型うつ病の再認識 1959年West とDallyが、ECT(電気けいれん療法)とイミプラミン(三環系抗うつ薬)が無効で、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)であるipronoazidが著効を示し、不安恐怖症状とヒステリー性の特徴をもつ「非定型うつ病」を提唱しました…

治療抵抗性うつ病の治療ガイドライン

APA(アメリカ精神医学会)(2010) 抗うつ薬で反応がなかった場合 (*本邦適応外) Level Ⅰ・心理療法の追加・異なる作用機序の抗うつ薬への切替 Level Ⅱ・リチウムの追加*・甲状腺ホルモンの追加*・非定型抗精神病薬の追加* Level Ⅲ・抗けいれん薬の追加*…

うつ病の治療アルゴリズム

TMAP(Texas Medication Algorithm Project)(2008) エビデンスに基づいた治療アルゴリズムを最初に作成したTMAPの2008年版 *は本邦未承認で英字記載 Stage0 全てのstageにおいて エビデンスに基づいた精神療法が単独あるいは薬物療法と併用で考慮 毎日の…

治療抵抗性うつ病と関連する因子

治療抵抗性うつ病(treatment resistant depression)の定義 一般的には、作用機序の異なる2種類以上の抗うつ薬を十分量、十分期間用いたにもかかわらず、十分に改善しない大うつ病性障害 Thase & Rushの分類のステージⅡに相当 治療抵抗性うつ病と関連する…

治療抵抗性うつ病とその治療選択肢

治療抵抗性うつ病のステージ・モデル(Thase & Rush) 治療抵抗性うつ病と言っても、どの程度の治療抵抗性なのかを理解する上で、Thase & Rushのステージ・モデルは最初の取り組みです。注意しなければならないのは、適切な抗うつ薬治療として、抗うつ薬を十…

うつ病と適応障害、新型うつ病って?

4月の新年度が始まり、期待に胸を膨らます人も多いわけですが、一方で新しい環境のなかで、緊張と不安も大きく、こころの変調をきたす人も少なくありません。 新しい環境という明らかなストレスで、不安感や憂うつ気分が一時的に出現して、社会生活や仕事、…

うつ病の3人に1人は薬が効かない?

STAR*D試験の結果 STAR*D(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)試験は、米国国立精神衛生研究所(NIMH)が主導し、初期治療に反応しなかったうつ病患者に対して、どのような治療が有効であるかを検討した大規模臨床試験で、2006年より…

うつ病の後遺症と就労者の社会復帰

こころの病気による労災補償件数の推移(厚労省資料) こころの病気による労災補償件数は年々増加しており、最近でも過労自殺の問題が大きくクローズアップされました。 ただ医療の現場も含めて、一律に時間だけを規制することが良いのか疑問が残ります。個…

うつ病の経過と予後

うつ病の持続期間 うつ病は治療をしなくても、一般的には6~13ヶ月間で症状が改善することもありますが、治療をしないでそのままにしておくと重症化して、希死念慮から自殺行動につながる危険性が増えてしまいます。 適切な十分な治療を受けると多くは約3ヶ…

抗うつ薬の副作用

昔の三環系抗うつ薬に比べて、最近の薬は副作用が弱くはなっていますが、全くないわけではありません。 初期 嘔気、胃部不快、下痢、眠気、だるさ、口渇、ふらつき 不眠、不安、いらいら感、希死念慮、衝動性(特に24歳以下) 持続・維持期 体重増加、性機能…

新規抗うつ薬(SSRI・SNRI・NaSSA)の特徴

各SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)の特徴 フルボキサミン(デプロメール®・ルボックス® ) 1999年に本邦ではじめて承認されたSSRI 適応疾患:うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害 本剤は肝薬物代謝酵素のうちCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19の阻害…

うつ病の治療

うつ病治療の三本柱 生物学的(内因性)要因が強いときや中等症以上のときは、薬物療法をしっかりする。性格的要因が強いときや軽症のときは、精神療法・カウンセリングを重視する。環境要因が強ければ、環境調整が必要になる。繰り返したり、慢性化している…

それぞれ(年代別)のうつの特徴

子供・学生のうつ 自分の気分の状態を認識(表現)できずに、頭痛、腹痛、怠さなどの身体症状の訴えが中心になることが多い。 朝起きられずに不登校や閉じこもりに発展することがある。 親に叱責されて、泣き出したり、イライラが強くなって反抗的、易怒的に…

操作的診断基準の登場

従来診断の問題点 内因性や心因性といった病因論的な診断は、病気の理解や治療を考慮する上ではとても重要でしたが、一方で内因性でも心因となるような状況因があることから反応性との境界があいまいになり、両者の鑑別は必ずしも容易ではなく、個々の精神科…