therapilasisのブログ

北総メンタルクリニック 院長の情報発信

うつ病の治療

うつ病治療の三本柱

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生物学的(内因性)要因が強いときや中等症以上のときは、薬物療法をしっかりする。性格的要因が強いときや軽症のときは、精神療法・カウンセリングを重視する。環境要因が強ければ、環境調整が必要になる。繰り返したり、慢性化しているときは、薬物療法の工夫とともに、認知行動療法などの精神療法・カウンセリングを組み合わせる。

 うつ病になったときに大切なこと

  • うつ病という病気にかかっているので、自分の意志の力で治そうとせず、無理をしないで、身体の病気になったつもりで、できる限り休息、睡眠をとる。
  • 必ず良くなるので、自殺は絶対しない。

  • 抗うつ薬治療では、きちんと決められた量を服薬する。
  •  一進一退があるかもしれないが焦らない。

  • いろいろなことを過小評価しているので、重大な決定はしない。 

周囲の対応で大切なこと

  • うつ病は、脳の機能が低下した状態なので、怠け病ではないし、気の持ちようだけでは、良くならないことを認識する。
  • 一生懸命やろうと思ってもできない状態なので、叱咤激励は本人を追いつめてしまうことがあるので注意する。
  • なるべく本人の負担を取り除く方向で協力する。
  • 気晴らしに誘ったりすると、本人は断れずについて行っても、かえって疲れてしまうことが多いので、連れ回さずに、なるべく休ませてあげる。
  • 自殺に注意する、とくに自責的な言動が多いときや思いつめた表情をしているときには注意が必要。
  • 症状が改善するまでに平均3ヶ月程度を要するので周囲も焦らない。


薬物療法

うつ病の重症度と推奨される治療

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日本うつ病学会監修; うつ病治療ガイドライン第2版,医学書院,2017.より抜粋、作表

 

従来診断に基づく治療選択

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(筆者作成)

 

うつ病の重症度とプラセボ効果

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           (Fournier JC, et al: JAMA. 303(1): 47-53, 2010.)

  • うつ病の薬物治療では、プラセボ効果が高いことが知られている。HAMD(ハミルトンうつ病評価尺度)が25点以下の場合には、実薬との差がほとんどないことも示されている。
  • したがって、中等症以下のうつ病では、プラセボ効果を期待して、ごく少量(初期用量の半量程度)の抗うつ薬を投与して、その反応性をみることもある。

 

主な抗うつ薬

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  • 三環系抗うつ薬は、抗うつ作用は強いが、副作用も多いため、重症でない場合は、最初からは使われなくなっている。
  • 最初に使われる抗うつ薬は、比較的副作用の少ないSSRISNRI、NaSSAで、原則として単剤での治療が望ましい。
  • 効果不十分の場合は、中途半端な量で多剤にせず、副作用に注意しながら一つの抗うつ薬最高用量まで増量して効果が判定される。
  • 高齢者や子供、身体疾患を合併している場合は、副作用が出やすいので、初期用量の半分程度から始めることも多く、増量も緩徐に行われる。
  • 抗うつ薬毎日服用することで効果が表れるので、飲んだり飲まなかったりしないで、決められた量をきちんと服用する。
  • 抗うつ薬の効果が現れるまでに、少なくとも1-2週間はかかるので、最初は嘔気やだるさなど、かえって症状が悪化したように感じることもあるが、我慢できるようなら継続する→辛い場合は主治医に連絡して対応を相談する。副作用の説明をきちんとしない医者は失格。
  • 不安感や不眠が強い場合には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬睡眠薬も使用されるが、抗うつ薬の効果が出てきたら、なるべく減量・中止することが望ましい。(不安感が強く、すぐには減量できないこともある。)
  • 飲み忘れや途中で服薬をやめると、断薬症状(めまい、嘔気、頭痛、異常感覚など)が出現するので注意する、自分の判断で勝手に服用をやめない。
  • 症状が改善(寛解)しても、症状の悪化(再燃、再発)を防ぐために、抗うつ薬は、すぐには減量しないで、同じ用量で4-9か月継続する。
  • 治療を終了するときは、断薬症状を防ぐため、少なくとも4週間以上かけて少量ずつ減量して中止する。

最近のマスコミの風潮は、抗うつ薬を含めた向精神薬の副作用をことさら大きく問題にして、無責任なネガティブなキャンペーンを繰り広げているように思えてなりません。その放送や記事を見て、不安になったり、服薬を中断して症状を悪化させる方が後を絶ちません。

薬物の適正使用と主治医との信頼関係が前提ですが、薬物療法で救われる人のほうが圧倒的に多いように思います。

服薬中断して、悪化すると薬剤を元に戻してもすぐには改善しない場合も出てきますので、勝手に服薬を中断することだけは控えてください。多剤服用していて、改善がない場合、主治医に相談しても全く処方が変更されず、そのままになっている等、主治医が信頼できないときは、セカンドオピニオンも含めて主治医の交代も検討する必要があります。

やむを得ず多剤になっていることもありますが、薬物療法が必要ない人に処方する必要はないし、服用薬剤が最小限で改善、回復することが望ましいのは言うまでもないことです。