うつ病に対する運動療法
うつ病の治療は休養が重要ですが、軽度から中等度のうつ病では、ある程度の有酸素運動が、症状の改善や再発の防止に効果的であるという報告が相次いで出されています。
- うつ病に対する運動療法の有効性(Northら, 1990)
- 最大強度80%の抵抗運動で抗うつ効果(Singhら, 1997)
- 薬物療法で効果が得られなかった平均年齢53歳のうつ病患者で運動療法の効果を検討した結果HAMDの得点が有意に減少(Matherら,2002)
- 軽度から中等度のうつ病患者に週3~5回のある程度の有酸素運動(5 kcal/kg*week)が有効(Dunnら, 2005)
- 運動療法による効果は、抗うつ薬よりも即効性があり、さらには継続的な運動がうつ病の再燃を抑える(Piluら, 2007)
- 202例のうつ病者で抗うつ薬服用群で47%、集団運動群 45%、個人運動群40%、プラセボ群約30%が改善(Blumenthalら, 2007)
入院された高齢うつ病患者さんに対する運動療法の効果の検討
(はじめに)
- うつ病患者さんの3分の1は薬物治療に抵抗性を示しますが、特に高齢者では、副作用で薬物が十分使えないこともあり、その傾向が高い
- 高齢のうつ病患者さんは、慢性化や再発が多い
- 高齢者の場合、臥床経過が多いと廃用性筋萎縮が起こりやすく、うつ症状が改善しても、運動機能の回復が遅れてしまう可能性
- 回復期であっても、自己効力感の低下や自信喪失などの心理的問題が残されていることが多い
(方法)
- 上記はイメージ画像ですが、準備体操後、数人の集団で施行、適宜転倒防止用の補助手すりを用いました。
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ボルグスケールという自覚的運動強度を測定するスケールで、個々の運動強度を決めました。
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リズムを3段階にわけ、一番難易度の低い速さから実施し、慣れてきたら徐々に早めるようにしました。
- リズムに合わせて実施できない場合は「1、2・・」と声をかけて患者さんが自分のテンポで行えるようにスタッフが付いて対応しました。
- 評価項目
- うつ病自己評価尺度(Self-rating Depression Scale: SDS)20項目
- 体力測定(Short Physical Performance Battery: SPPB)3項目
- 気分評価(Temporary Mood Scale:TMS)18項目(6尺度3項目ずつ)
- その他各質問紙による心理検査
(結果)
- 短期間の実施でも有酸素運動を行うことでうつ病患者さんの快気分が増加して、不快気分が減少することがわかりました。
- 継続して数回運動を実施することにより体力・バランス感覚の改善が図れることが示唆されました。
- 個人での運動ではなく、集団で運動を行うことによる安心感や共有感、自分のペースではなく、相手のペースに合わせたり、最後までできたという共感性や達成感が得られることが示唆されました。
現在、病棟での運動療法は休止していますが、高齢者のうつ病患者さんに対しては、非常に有用性が高く、入院期間の短縮や、退院後の生活適応がより速やかになる可能性があるのではないかと考えています。
運動療法の効果のメカニズム
- 運動によって脳内のエンドルフィンという内在性オピオイド(脳内麻薬とも呼ばれる)が分泌され快感情が増加します。
- 脳内のBDNF(脳由来神経栄養因子)が増加し、セロトニンやドーパミンの合成を促進させ、気分や意欲を高めます。
- とくに、リズムを意識したリズム運動がセロトニン活性を高めることが知られていますので、「1、2、1、2」とリズムをとりながらの踏み台昇降や腕を振りながらのウォーキングなどが効果的です。
- 1週間に3~5日間、1日30分程度運動を行うと、うつ病や不安症状が改善すると言われていますが、汗ばむ程度の適度な運動量と自分が楽しいと思える運動をすることが重要です。
- 適度な運動習慣は、睡眠覚醒リズムを安定させるとともに、自己効力感を高める効果もあり、うつ症状の改善や再発防止にもつながるのかもしれません。