従来診断の不安神経症に相当しますが、1980年のDSM-Ⅲ以降は、パニック障害という診断が浸透し、DSM-5からパニック症という障害→症への病名変更がなされています。
パニック症/パニック障害(Panic disorder)の診断(DSM-5)抜粋
- 繰り返される予期しないパニック発作
- 発作のうちの少なくとも1つは以下の1つまたは両者が1カ月以上継続
- パニック発作について持続的な懸念
- 発作に関連した行動の回避
- その障害は物質の生理学的作用、他の医学的疾患によるものでない
- その障害は他の精神疾患によってうまく説明されない
注:パニック症の診断基準を満たさない上記のパニック発作は、他の精神疾患(例:抑うつ障害群、PTSD、物質使用障害群)や、いずれの不安症群にも随伴して生じうる。その場合は特定用語として示される(例:パニック発作を伴うPTSD)。
- 「予期しない」とは、明らかなきっかけや引き金がないパニック発作で、くつろいでいるときや、睡眠中パニック発作で覚醒(夜間のパニック発作)することがあります。
- 「予期される」パニック発作は、ある特定の状況で明らかなきっかけや引き金があります。
- パニック症の半数は、「予期されないパニック発作」も「予期されるパニック発作」ももっています。ただし、パニック症の診断には2回以上の「予期されない完全に症状が揃ったパニック発作」の出現が必要になります。
パニック発作についての心配・懸念
- 生命を脅かす身体的疾患(例:心疾患や頭痛は脳腫瘍)によるものではないかという懸念
- パニック発作時の様子が、他の人達から否定的に評価される社会的な懸念
- 自分がどうかなってしまうといった精神機能についての懸念
行動面での不適応的な変化
- パニック発作を回避するための行動や発作時に援助が得られるようにする日常生活の変化や毎日の活動の制限
- 外出や公共交通機関の利用、買い物に行く、といつた広場恐怖症型の状況回避がある場合は広場恐怖症という別の診断が下されます。
有病率
- 欧米諸国の若者と成人におけるパニック症の12カ月有病率は約2~3%。アジア、アフリカとラテンアメリカの国々で1~0.8%。女性が男性の約2倍。
気質要因
- 否定的感情と不安への過敏さは、パニック発作出現の危険要因
環境要因
- 小児期の性的および身体的虐待の経験、喫煙は危険要因。
- 最初のパニック発作の前数力月の間に特定できるストレス因(例:薬物の不快な経験、病気、家族の死のような対人関係や身体的健康に関するストレス因)があることが多い。
遺伝要因と生理学的要因
- 複数の遺伝子がパニック症への脆弱性に関与すると考えられていますが、いまだに不明。
- 女性だけにカテコール-0-メチルトランスフェラーゼ(COMT)遺伝子が関連
- 扁桃体とそれと関連した部位が関与
- 不安障害群、抑うつ障害群、双極性障害群をもつ親の子どもではパニック症の危険が増大
- 喘息のような呼吸器の障害は、既往歴、併存症、家族歴に関してパニック症と関連
診断マーカー
- 乳酸ナトリウム、カフェイン、イソプロテレノール、ヨヒンビン、二酸化炭素、コレシストキニンなどがパニック発作を誘発
- 一部は、延髄の二酸化炭素受容系の過敏性と関連し、その結果、炭酸症と他の呼吸の不規則性の出現
併存症
- .パニック症の罹病率は、他の不安症群(特に広場恐怖症)、うつ病、双極性障害、軽度のアルコール使用障害でも増加
- パニック症をもつ人の10~65%でうつ病を併存、両疾患を伴うものの約1/3で,抑うつはパニック症の発症より先行、残りの2/3は抑うつがパニック症の発症と同時または後に出現
典型的な症例
- 23歳の女性、職場の人間関係で悩んで、あまりよく眠れない状態が続いていました。ある朝満員の通勤電車に乗ったところ突然、動悸、息苦しさ、発汗、震えが出現して、どうにかなってしまうのではないかという恐怖感から途中下車して、しばらく休んだらなんとか回復しました。しかし、満員電車に乗ると同様な症状が何度か続き、また起こすのではないかという不安(予期不安)が強く、そのうち普通に仕事をしていても突然同様の症状が出現するようになりました。ある時、自宅でくつろいでテレビを見ていたら突然、同様の発作が出現し、心臓の病気だと考え、家族に救急車を呼んでもらい救急病院を受診しました。病院に着く頃には症状はおさまり、心電図等の検査でも異常はなく、精神的なストレスではないかということで、精神科に行くように言われ、精神科を受診したところパニック障害と診断され、治療が開始されました。
パニック症の治療
- 不安に関する心理教育
- パニック発作、予期不安、身体反応などの発生の仕組みの理解
- 身体反応のコントロール
- リラクゼーション法
- エクスポージャー法と回避行動の消去
- 段階的 or フラッディング法(最も不安を感じる場面に最初から直面させる)
- 薬物療法のみではすぐに不安の再燃が起こり、認知行動療法を併用すると薬物療法のみの治療よりも有意に、かつ一貫して反応がよいことが示されています。