この病態に関しては、欧州の伝統的な考え方を踏襲してきたWHOによるICDと、米国精神医学会のDSMで異なった捉え方をされていました。
ICD-10では、広場恐怖は、恐怖症の中心的な障害で、パニック発作は恐怖症の下位項目として「パニック障害を伴わない広場恐怖」と「パニック障害を伴う恐怖症」に分類されています。一方、DSM-Ⅳでは、コロンビア大学グループの考え方に準拠して、広場恐怖はパニック障害の結果で起こるものとして、「広場恐怖を伴うパニック障害」「広場恐怖を伴わないパニック障害」「パニック障害の既往のない広場恐怖」に分類され、パニック障害の随伴症という立場をとっていました。しかし、DSM-5では、パニック障害に伴わない広場恐怖が相当数存在するという意見を考慮して、広場恐怖をパニック障害から独立したカテゴリーとして診断基準が作成されています。
広場恐怖症(Agoraphobia)の診断(DSM-5)抜粋
- 以下の5つの状況のうち2つ以上について著明な恐怖または不安がある
- 公共交通機関の利用(例:自動車、バス、列車、船、飛行機)
- 広い場所にいること(例:駐車場、市場、橋)
- 囲まれた場所にいること(例:店、劇場、映画館)
- 列に並ぶ、群衆の中にいること
- 家の外に1人でいること
- パニック様の症状や、耐えられない、当惑するような症状(例:高齢者の転倒の恐れ、失禁の恐れ)が起きたときに脱出は困難で援助が得られないかもしれないと考え、これらの状況を恐怖し回避する
- その恐怖、不安、回避は持続的で典型的には6カ月以上続く
- その恐怖、不安、回避は他の精神疾患の症状ではうまく説明できない
注:広場恐怖症はパニック症の存在とは関係なく診断される.その人の症状提示がパニック症と広場恐怖症の基準を満たしたならば両方の診断が選択される。
有病率
- 成人の12ヶ月有病率は約1.7%。女性が男性の約2倍。
症状の発展と経過
- 広場恐怖症の発症前にパニック発作またはパニック症を報告する率は、一般人口の30~50%。経過は、持続的で慢性的で、治療されない限り完全な寛解はまれ(10%)。
- 他の不安症群、抑うつ障害群、物質使用障害群、パーソナリテイ障害群は広場恐怖症の経過を複雑なものにする。
- 長期経過と転帰は、二次的なうつ病、持続性抑うつ障害(気分変調症)、物質使用障害の危険を著しく高める。
危険要因と予後要因
- 気質要因:行動的抑制と神経症的素因(否定的感情)と不安への敏感さは密接に関
- 環境要因:小児期の否定的な出来事(例:分離、両親の死)や襲われる、奪われるといった他のストレスの強い出来事は発症と関連する.さらに家庭の中では暖かさが少なく育児はより過保護。
- 遺伝要因と生理学的要因:広場恐怖症の遺伝率は61%。
併存症
治療
- パニック障害に準ずる