心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)
生命を脅かされるような大きなストレスとなる出来事によって精神的苦痛や生活機能が障害され、以下の症状が1ヶ月以上続く。
急性ストレス障害(Acute Stress Disorder: ASD)
上記の症状が、1ヶ月に満たないもの
PTSDのリスク要因
- 小児期の心的外傷
- 境界性、妄想性、依存性、反社会性パーソナリティ特性
- 家族や同僚の支援が不十分
- 女性
- 精神疾患の遺伝負因
- ストレスになる生活上の変化
- 制御の部位が内部(人的原因)よりも外部(自然原因)にあるという認知
- 過度のアルコール摂取
治療
- 限定的な効果で精神療法を優先
- SSRI、SNRIが一定の効果
- 三環系では、イミプラミン(トフラニール®)とアミトリプチリン(トリプタノール®)
- ベンゾジアゼピンは、不安症状に対して、おそらく多くの診療場面で使用されている可能性がありますが、精神療法の効果を減弱させたり、依存を形成しやすく、症状を増悪されることがあり、推奨されません(急性使用としても短期必要最小限)
- 過覚醒による不眠も、ベンゾジアゼピンは有用でなく、トラゾドン(デジレル®、レスリン®)、ミアンセリン(テトラミド®)、ミルタザピン(リフレックス®、レメロン®)といった睡眠作用のある抗うつ薬
- 非定型抗精神病薬:オランザピン(ジプレキサ®)、クエチアピン(セロクエル®)
- 気分安定薬:バルプロ酸(デパケン®)、ラモトリギン(ラミクタール®)
- 交感神経遮断薬(抗アドレナリン作動薬)であるクロニジン(カタプレス®)、プロプラノロール(インデラル®)、ブラゾシン(ミニプレス®)
精神療法
- 暴露療法
- トラウマの再体験、フラッディングor 系統的脱感作療法
- ストレス管理法
- EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)
- 左右に振られるセラピストの指を目で追いながら、過去の外傷体験を想起します。この方法は、深い弛緩状態の中で、トラウマを処理し再体験することによって症状が軽減すると考えられています。
-
デブリーフィング(debriefing)
- PTSDの予防として、外傷体験後数日までに、出来事の再構成、感情発散、トラウマ反応の心理教育を行うが、現在では有効性は否定され、むしろ有害で行ってはならない。
(参考)
DSM-5では、不安障害から心的外傷およびストレス因関連障害群も独立させ、その中に、反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害を含めている。その理由として、心的外傷やストレスの強い出来事に曝露されると不安、恐怖というよりも、快感消失、不機嫌、怒りと攻撃、解離症状といった多様な表現型を示すことによると説明している。
心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder: PTSD)の診断(DSM-5)抜粋
A.実際に、危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への以下の1つ以上の曝露
- 心的外傷的出来事の直接体験
- 他人に起こった出来事の目撃
- 近親者、親しい友人に起こった出来事を耳にする
- 心的外傷の強い不快感をいだく細部に、繰り返し、または極端に曝露
B.心的外傷的出来事の後、以下のいずれか1つ以上の侵入症状の存在:
- 心的外傷の反復的、不随意的、侵入的で苦痛な記憶
- 夢の内容と情動が心的外傷に関連し、反復的で苦痛な夢
- 心的外傷が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(1つの連続体としての反応で、極端な場合は現実状況への認識を完全に喪失する)
- 心的外傷の側面を象徴、類似する内的、外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛
- あるいは上記による生理学的反応
C.心的外傷に関連する刺激の持続的回避。心的外傷後に以下のいずれか1つ以上
- 心的外傷に関連する苦痛な記憶、思考、感情の回避、または回避努力
- 心的外傷に関連する苦痛な記憶、思考、感情を呼び起こすもの(人、場所、会話、行動、物、状況)の回避または回避努力
D.心的外傷に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷後に発現、悪化し、以下のいずれか2つ以上
- 心的外傷の重要な側面の想起不能
- 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想
- 自分自身や他者への非難につながる心的外傷の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識
- 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、恥)
- 重要な活動への関心または参加の著しい減退
- 他者から孤立、疎遠になつている感覚
- 陽性の情動を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができない)
E.心的外傷と関連した覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷後に発現、悪化し以下のいずれか2つ以上
- 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示されるいらだたしさと激しい怒り
- 無謀な、自己破壊的な行動
- 過度の警戒心
- 過剰な驚愕反応
- 集中困難
- 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難,または浅い眠り)
F.障害(基準B、C、D、E)の持続が1カ月以上
G.その障害は臨床的な苦痛、社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
※診断基準を満たすまでに数ヶ月または何年も遅れることもあるが、通常、心的外傷後3ヶ月以内に出現する。心的外傷の直後はしばしば急性ストレス障害の基準を満たす。症状の持続期間は成人の約半数では発症後3ヶ月以内に完全に回復するが、12ヶ月以上、時に50年以上症状が持続する人もいる。症状の再発と増強は心的外傷を思い出させる物事、持続する生活上のストレス、または新たに体験した心的外傷に反応して生じることがある。