発達障害は、脳の先天的な機能的・器質的原因によって引き起こされた発達に関する障害の総称です。その特性は生涯にわたって持続しますが、症状は年齢とともに変化し、適応の程度も、環境とのかかわりや養育の在り方、療育などによって著しい幅が生じます。したがって、固定的にとらえないことが重要です。
自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
(Autism Spectrum Disorder: ASD)
診断的特徴
- 基本的特徴
- 持続する相互的な社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害(基準A)
- 限定された反復的な行動、興味、または活動の様式(基準B)
- これらの症状は幼児期早期から認められ、 日々の活動を制限するか障害する(基準CとD)
- 機能的な障害が明らかとなる局面は、個々の特性や環境によって異なる.主要な診断的特徴は発達期の間に明らかとなるが、治療的介入、代償、および現在受けている支援によって、その困難が隠されているかもしれない。障害の徴候もまた、 自閉症状の重症度、発達段階、暦年齢によって大きく変化するので、スペクトラムという単語で表現される.
- 自閉スペクトラム症は、以前には早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症、高機能自閉症、非定型自閉症、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害、およびアスペルガー障害と呼ばれていた障害を包括している.
自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(DSM-5)の診断基準(抜粋)
A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる.
(1)相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ.
(2)対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常:または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ.
(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ.
現在の重症度を特定せよ
- 重症度は社会的コミュニケーションの障害や、限定された反復的な行動様式に基づく.
B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる.
(1)常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話
(2)同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式.
(3)強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味.
(4)感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味.
現在の重症度を特定せよ.
重症度は社会的コミュニケーションの障害や、限定された反復的な行動様式に基づく.
C.症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が能力の限界を超えるまでは症状は完全に明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある).
D.その症状は、社会的、職業的、または他の薫要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている.
E.これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明されない 知的能力障害と自開スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーシ∃ンが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない.
該当すれば特定せよ
- 知能の障害を伴うしまたは伴わない
- 言語の障害を伴う、または伴わない
- 関連する既知の医学的または遺伝学的疾患、または環境要因.
- 関連する他の神経発達症、精神疾患、または行動障害
- 緊張病を伴う
有病率・性別
子どもと成人のいずれのサンプルでも人口の1%
女児よりも男児に4倍多く診断。女性は知的障害を伴うことが多いが、知的障害や言語の遅れを伴わない女児は認定されずにいる可能性があります。
DSM-5での変更点
- DSM-5では下位診断の分類をなくした(アスペルガーがなくなった)。
- アスペルガー障害をはじめとして『拡大し過ぎた広汎性発達障害のカテゴリー』を狭める目的で、ASDという自閉症的な特徴・症状の連続体の概念が採用された。
- 特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)の中で、こだわり行動(常同行動)や興味関心の限局(想像力の障害)が目立たない症例については、自閉症スペクトラムとは分けて『社会的コミュニケーション障害』として診断。
- DSM-Ⅳまでは、ADHD(注意欠如・多動性障害)の診断を受けた患者は、自閉症・アスペルガー障害といった広汎性発達障害の診断を重複して受けることができず鑑別診断をすることになっていたが、DSM-5では『自閉症スペクトラムとADHDとの重複診断(並存する状態)』を認めるという変更がなされた。