脳卒中後うつ病の症候学的議論
脳卒中後大うつ病(n=43)と年齢を一致させた機能性うつ病(n=43)の臨床症状の比較
- LipseyらのRobinsonグループは、脳卒中後大うつ病は、機能性大うつ病と比較して、「緩慢さ」が有意に高く、「興味と集中力の低下」は有意に低かったが、その他の症状は、ほぼ類似していることを報告しています。
脳卒中後大うつ病と内因性うつ病の症候学的比較
- 一方Gainotiiらは、10項目からなる独自のうつ病評価尺度を用いて、脳卒中後うつ病と内因性うつ病を比較して、脳卒中後うつ病は、急性期(2ヵ月以内)も慢性期(4ヵ月以上)も同様な症候学的なプロフィールを示し、内因性うつ病とは異なったプロフィールを示していることを報告し、急性期の脳卒中後うつ病は内因性うつ病とは異なる抑うつ破局反応に他ならないと主張し、Robinsonグループの急性期の脳卒中後うつ病は生物学的要因の強いうつ病であるという主張に反論しています。
脳卒中後うつ病の早発例と遅発例における症候学的特徴
- Gainotiiらの報告に対して、TatenoらのRobinsonグループは、脳卒中後うつ病の早発例と遅発例で症候学的な検討を行い早発性では遅発性に比べて、Vegetative symptomが有意に多く、早発例は遅発例よりも生物学的要因が強く、内因性うつ病と類似な症候を示しており、脳卒中後うつ病は急性期と慢性期では異なった病態であると主張しています。
また、急性脳卒中の存在は、正しく診断されないうつ病の症例数を有意に増やすようなことはありません。おそらく、1~2%の症例は身体疾患の結果として生じる症状により過剰診断されるかもしれません。一方で、ほんのわずかの患者は、抑うつ気分があることに本人が気づけないために過小診断されるかもしれません。
脳卒中患者のような急性疾患における抑うつ症状を評価することについてのこれらの問題は、ごく一部の患者を過剰診断あるいは過小診断させてしまうかもしれませんが、急性身体疾患の存在は、これらの集団における大うつ病の全く新しい診断方法の開発を必要とするものではありません。