脳卒中後うつ病と認知機能障害の関連
~Robinsonグループの検討を中心に~
大うつ病と認知機能障害(MMSE得点による)との関連
病変部位との関連
- 脳卒中後の大うつ病においては、右半球病変に比較して左半球病変で有意に認知機能が障害されていることが示されています(Downhill & Robinson 1994) 。
- 上記の結果については、MMSEが優位半球(通常左半球)によって処理されることの多い言語的機能に強く影響されるためではないかという見解も示されました。
- Bolla-WilsonらによるMMSE以外の詳細な神経心理学的検討
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- 右半球によって通常処理される認知機能を含めて、左半球病変の大うつ病患者と関連のあることを明らかにしています。
- 右半球によって通常処理される認知機能を含めて、左半球病変の大うつ病患者と関連のあることを明らかにしています。
- Starksteinらによる病変部位を一致させた認知機能の検討
- 病変部位の大きさと認知機能障害との関連
その他の報告
脳卒中後の認知障害のメカニズム
- 病変部位を一致させた患者群で、大うつ病患者が有意に大きな認知障害を示していることから、認知障害がうつ病を引き起こすものではない。
- 脳卒中後の1年以内では、大うつ病患者は非うつ病患者に比較してMMSEが有意に低値であり、左半球病変の大うつ病患者のみに認知機能障害と関連があるということは、単にうつ病の存在が認知機能障害を引き起こしているのではないということを示しています。
- つまり、うつ病の存在が、認知機能障害を引き起こすのであれば、時間経過とは関係ないであろうし、右半球病変によるうつ病でも認知機能障害が出現するはずです。
- これらのことから、左半球病変の脳卒中と関連したある特殊な生理学的状態が認知障害とうつ病の両者を引き起こしている可能性が示唆されます。
左前頭葉5-HT2受容体結合能とMMSE得点
- PETによる左前頭葉のN-メチルスピロン(NMSP)結合率とMMSE得点の関係。5HT2受容体結合能の増加によって認知機能が改善することが示されています。
- Robinsonらは、認知機能障害は前頭葉のセロトニン作用が一部介在し、脳卒中後うつ病は側頭葉のセロトニン作用が一部介在しているという仮説を立てています。
- 5-HT2受容体結合能における前頭葉と側頭葉の機能障害は、脳卒中後の大うつ病と認知機能障害の両者を引き起こし、両者が存在する場合には、前頭葉の機能障害が側頭葉機能にも影響を及ぼすためうつ病はより長期化するのではないか?
- またこの場合の治療としては、前頭葉のドパミン活性を賦活する薬剤(例えばリタリンなど)が有効かもしれません。
- 一方、側頭葉の機能障害のみでは、認知機能障害を伴わないうつ病を引き起こし、この場合は側頭葉の活性を賦活するSSRIで良好な反応が得られるかもしれません。
- 以上から、脳卒中後うつ病の治療は認知機能障害と気分障害の両者を改善させる可能性があるものの、うつ病が認知機能障害と伴って出現するか否かによって治療効果は異なるかもしれません。Robinsonらのこれらの仮説についてはさらなる検証が必要です。
脳卒中後うつ病の治療による認知機能の改善
- うつ病の治療によって、認知機能障害が改善された場合、その認知機能障害は、仮性認知症と呼ばれます。
- Robinsonらは、左前頭葉病変の脳卒中後の大うつ病で、仮性認知症と同様な病態が起こることを報告しました(Robinson RG, et al: Br J Psychiatry, 1986)。
- しかし、多くの脳卒中後うつ病の治療試験において、認知機能の改善は認められず、Andersen Gらは、脳卒中後のうつ病と認知機能障害の関係は、仮性認知症ではなく仮性うつ病と考えるべきだという主張をしました。
- そこで、筆者らは、Robinsonらの行った脳卒中後うつ病の治療試験を再度検討し直して、抗うつ薬とプラセボによる比較ではなく、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)の得点が、50%以上改善した群(治療反応群)と改善しなかった群(治療非反応群)で改めて比較検討しました。
- その結果、治療反応群は、治療非反応群に比較して明らかに認知機能が改善することを示し、脳卒中後うつ病では仮性認知症と同様な病態が引き起こされることを報告しました。
- また、MMSEの各項目の変化値の比較したところ、注意計算力と再生力の2項目で、治療反応群が治療非反応群に対して有意に改善していて、これは仮性認知症の特徴と一致していることを明らかにしました。