社会認知理論
変性意識を催眠の特徴とみなす状態論に対して非状態論は、催眠を特別な変性意識ではなく、被験者のおかれた状況要因と心理状態によって生じた行動ととらえる。
催眠の理論のなかで、非状態論の主流とされる社会認知理論は単一理論ではなく、複数の社会心理学、認知心理学の概念から構成される一群の理論である。
バーバーの課題動機説
バーバー(Theodore X. Barber,1927-2005)は、1960年代に心理学会を風靡した徹底的行動主義を催眠研究に導入し、催眠行動の系統的な観察と分析を行い、被験者の催眠反応を以下の8項目が重要な要因であると主張した。
- 態度
- 期待
- 暗示の言い回しと口調
- 動機づけ
- 催眠という名称による動機づけ
- リラクセーション暗示
- 問いかけによる反応評価
- 誘導者の行動
彼は、これらの中から特に「動機づけ」を重視し、催眠反応を被験者に特有の課題として与えた場合、その動機を高めることによって反応が起こるかを検証した。その結果、単純な観察運動から複雑な反応まで、催眠に特有の反応と考えられていたものが、通常の意識状態でも「催眠誘導」なしに起こることを実証した。
ハーバーは非状態論を擁護する根拠として以下の5つを挙げている。
- 催眠反応が通常の意識状態で起こる限り、変性意識の概念は無用である。
- 催眠反応は変性意識によって生じる現象ではなくて、特定の課題に対する動機づけによるものである。
- 催眠反応は被験者の有する能力範囲内に限定される。
- 催眠反応に伴う非自発感は既存の心理法則(例えば課題動機説など)によって十分に説明できる現象である。
- 催眠独自の生理反応が見つからない限り、催眠を生理現象とみなすことは不条理である。