方略的指示療法(Strategic Psychotherapy)
1. 方略的指示療法の目指す理想像
方略的指示療法は、クライエントが抱える問題点や症状をそのまま容認する「非指示的」なアプローチと、そこに肯定的な変化を積極的にもたらす「指示的」なアプローチの双方を兼ね備えた、心理療法の理想像を目指すものである。
2. エリクソン心理療法の基本原則
このアプローチを支える具体的なパラダイム(枠組み)は、以下の要素で構成されている。
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利用法(Utilization): マニュアル化された公式の暗示を誰にでも等しく与えることはしない。クライエントの行動、性格、現在の心理状態、さらには偶然起きた外部の状況など、あらゆるものを重視し治療に「利用」する徹底したクライエント中心主義である。
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無意識への注目: 変化を起こすためには「無意識」への働きかけが必須であると考える。無意識はネガティブな闇ではなく「ポジティブな資質」を秘めた味方であり、無意識同士で多重なコミュニケーションを取ることが治療者の本質的な能力とされる。
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ポジティブ・リフレーミングと未来志向: クライエント自身が「欠陥」や「症状」だと思い込んでいるものを、何らかの「優れた特徴(強み)」として意味づけ直す(リフレーミング)。さらに、過去の原因探しではなく、時間進行法などを用いて「未来の目標」に向けた問題解決へと導く。
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症状処方と仔細な観察: 治療への抵抗や症状を排除するどころか、あえて受け入れ奨励する(症状処方)。また、日常の心理的・生理的反応、社会生活、服装や髪型といった極めて些細なことまで徹底的に観察し、治療の進捗に役立てる。
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催眠誘導と暗示の「間接性」: 意識(理性)からの干渉や抵抗を避けるため、直接的な命令は用いない。話題の誘発、質問型暗示、言外の意味、二重拘束(ダブルバインド)、比喩(メタファー)や逸話の散りばめなど、意識の網の目をすり抜けて無意識に直接届く多種多様な「間接法」を駆使する。
3. 精神分析との決別(反精神分析)
エリクソンは1940年代までに、「精神分析療法は有効ではないどころか、無意識の力動を理屈で解釈しようとする態度は、クライエントの真の変化を妨げる」と結論づけた。彼のアプローチは精神分析と対極をなす。
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無意識を「賢明で肯定的な力」と捉え、クライエントのポジティブな面に目を向ける。
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クライエントの問題は無限に多様であり、治療技法も無限に柔軟でなければならない。
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「治療で生じるすべての結果は治療者の責任である」という強い自覚を持つ。
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症状や問題そのものに直接介入し、変化を起こす積極的な姿勢をとる。
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治療は診察室の中に留まらず、クライエントの生活に積極的に介入し、家族や地域社会の協力も求める。
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時間も費用も極めて柔軟である(1回のセッションが11時間に及ぶことや、成功報酬制をとることもあるが、基本的には短期で終結する)。
4. 画一的プログラミング(マニュアル化)への批判と本質
エリクソンの手法から派生した現代のいくつかの学派には、彼が最も大切にした「多様性・柔軟性」に逆行する傾向が見られる。
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神経言語プログラミング(NLP): 「ある決まった手順(公式)を踏めば即効的な効果が得られる」と強調しすぎるきらいがある。
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MRIブリーフセラピー: 悪循環を断つために、症状処方的な介入を「画一的」に行う傾向がある。
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解決志向ブリーフセラピー(ミルウォーキー派): リフレーミングや未来志向にのみ特化している。
これらの学派はエリクソンのアプローチの一部分(対極をなす要素)だけを切り取って強調したものであり、互いに議論と統合が必要である。
【まとめ】
真の方略的指示療法とは、「先に特定の技法ありき」ではない。まずクライエントの悩みに深く共感して寄り添い、その固有の状況に合わせて最も適切な技法を柔軟に選択・創造していくことである。一つの定型的な技法に固執したり、催眠を排除したり、無意識の働きを軽視したりするようなアプローチは、決して方略的指示療法とは呼べない。