2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧
1950年代以降精神科治療は薬物療法が中心になっていますが、それ以前はさまざまな身体療法が試みられてきた歴史があります。 発熱療法(マラリア療法) Wagner von Jauregg J., 1917, オーストラリア(ノーベル賞受賞) 神経梅毒の治療法として広く用いられ…
高齢者うつ病の薬物療法 高齢者や身体合併症がある場合には、副作用が出現しやすいため、どの薬剤も低用量から開始し(通常の初期用量の半量からでも良い)、増量も副作用に注意して緩徐に行う必要があります。 効果が不十分なときは、忍容性が許す限り、十…
アパシーとは? 脳卒中後などには、うつ症状と混同されやすい、自発性の低下を主体としたアパシーという病態が出現することがあります。アパシーの語源はギリシャ語のapatheiaという語に由来し、感情(pathos)の欠如を示しますが、精神神経学用語集では「無…
うつ病と認知症の併発 アルツハイマー病の40~50%に抑うつ気分、10~20%にうつ病が合併(Wragg RE et al, 1989) 血管性認知症の60%にうつ症状がみられ、27%にうつ病が合併(Cummings JL et al, 1987) アルツハイマー型認知症の42%、脳血管性認知症の3…
認知症とうつ病の仮性認知症との鑑別 高齢者のうつ病は、思考抑制などが強くなると仮性認知症といって、認知症と同様な症状を呈することがあります(10~30%)。仮性認知症の場合には、抗うつ薬治療などでうつ症状が改善すれば認知症様の症状も改善しますの…
脳血管障害とうつ病の相互関係性 脳血管障害とうつ病の両者に共通した規定因子として「心理社会的ストレス」があります。脳血管障害でうつ病にもなりますが、うつ病になると、血小板凝集能の亢進、ω3系脂肪酸の減少、BDNFの減少、コルチゾールやサイトカイン…
抗うつ薬治療による認知機能の改善 脳卒中後うつ病の抗うつ薬治療試験で、うつ症状は改善するものの認知機能の改善が認められないため、脳卒中後うつ病は、認知症に伴う仮性うつ病と捉えるべきではないかという議論がありました。Robinsonらは、PSDの抗うつ…
脳卒中後うつ病の有病率 PSD有病率(メタ解析) 急性期、慢性期を問わず、脳卒中患者の約3割がPSDに罹患します。 PSDは認知機能を悪化させる 脳卒中後の病変部位を一致させたPSDと非PSDを比較すると、PSDの方が有意に認知機能が障害されていました。 PSDは…
Robinsonの左前頭葉傷害仮説 Robinsonらは、病変部位が左前頭葉にあるとうつ病になる頻度が高く(左図)、左半球においては病変が前頭極に近いほど(前方にあるほど)重症度が高い(右図)という左前頭葉傷害仮説を提唱。 皮質および皮質下の病変によるPSDの…
脳卒中後うつ病(post-stroke depression: PSD) 脳卒中後にみられる器質性ないし二次性のうつ病 脳梗塞後でも脳出血後でも、うつ状態の症状や頻度には大きな差異がないため、脳梗塞後も脳出血後もあわせて脳卒中後うつ病として検討していることが多い。 脳…
血管性うつ病の臨床症状 機能性うつ病というのは、脳血管障害のない通常の高齢者うつ病です。つまり、高齢うつ病者は不安焦燥感が目立つタイプは、一般的な高齢者のうつ病を考える必要がありますが、精神運動抑制やアパシーという動きの少ないタイプの場合に…
血管性うつ病の概念提出の経緯 高齢者うつ病では、無症候性(症状が現れない)脳梗塞が多いということが判明して、血管性うつ病という概念が提出されています。その経緯について説明します。 Krishnanら(1988)は、高齢うつ病者が健常対象者に比してT2強調画…
身体症状へのとらわれが目立ちます 痛み、めまい、胃腸症状、呼吸困難、動悸、排尿困難、頻尿、便通異常などの身体的不定愁訴が中心で、抑うつ心性はあまり目立ちません。 ⇒仮面うつ病(masked depression) プライマリケアで診療される患者の10~18%にうつ…
DSM-ⅣからDSM5になっての変更点 DSM-IV 死別反応を超えるものを、2ヶ月以上続くもの、または重度の特徴を持つものと定義。 DSM-5 2ヶ月や症状などの人為的な線を引かず、死別反応の範囲か否かは、臨床的な判断にゆだねられました。 この変更に当たっては、…
高齢者ではいろいろなことが要因になってうつ病になります。 うつ病の発症要因としては、遺伝・生育的な要因があります。性格、思考・行動パターン、ストレス脆弱性などが背景にあり、そこに心理社会的要因や身体的要因が絡まってうつ病を発症します。 高齢…
リストカットなどの自傷行為は、「こころの痛み」を和らげるための行為と言われます。ですので、自傷行為を繰り返す人はこころの痛みが深いのです。 つらさから逃れて生きるための行為でもあるのですが、繰り返すなかで自殺企図につながることもあるので、注…
日本の自殺死亡者数の推移 わが国における自殺者数は2万人台であったものが、1998(H10)年に1万人程度増加して3万人を超え14年間連続して3万人を超え続け、その後減少に転じています(図)。 1990年代以降の社会変動 バブル景気に狂乱した拝金主義と利己主…
BAP(英国精神薬理学会)(2009) 軽症 クエチアピン ラモトリギン 中等症 クエチアピン ラモトリギン SSRI TCA(三環系抗うつ薬)以外の抗うつ薬 重症 ECT(電気けいれん療法) WFSBP(生物学的精神医学世界連合)(2010) 第1選択 クエチアピン 第2選択 単…
双極性障害のうつ病相に対する抗うつ薬の使用 STEP-BD (Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder) 米国で実施された双極性障害患者の治療効果、経過、転帰についての大規模多施設臨床試験(Sachs GS, et al. N Engl J Med 356, 200…
非定型うつ病の再認識 1959年West とDallyが、ECT(電気けいれん療法)とイミプラミン(三環系抗うつ薬)が無効で、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)であるipronoazidが著効を示し、不安恐怖症状とヒステリー性の特徴をもつ「非定型うつ病」を提唱しました…
APA(アメリカ精神医学会)(2010) 抗うつ薬で反応がなかった場合 (*本邦適応外) Level Ⅰ・心理療法の追加・異なる作用機序の抗うつ薬への切替 Level Ⅱ・リチウムの追加*・甲状腺ホルモンの追加*・非定型抗精神病薬の追加* Level Ⅲ・抗けいれん薬の追加*…
TMAP(Texas Medication Algorithm Project)(2008) エビデンスに基づいた治療アルゴリズムを最初に作成したTMAPの2008年版 *は本邦未承認で英字記載 Stage0 全てのstageにおいて エビデンスに基づいた精神療法が単独あるいは薬物療法と併用で考慮 毎日の…
双極性障害の過少診断 双極性障害の37%は、単極性うつ病と誤診されている(Ghaemi,2000)双極Ⅱ型障害の正確な診断率は9%に過ぎない(Vieta E et al, 2000)うつ病外来受診者の60%が、実は双極Ⅱ型障害(Benazzi,2004) なぜ、過少診断が起こるのでしょう…
躁病・軽躁病エピソードの診断基準(DSM5) 必須項目 気分高揚、開放的、易怒的、異常で持続的な活動亢進 (ほぼ毎日、一日の大半において出現する) 自尊心の肥大,誇大 睡眠欲求の減少 多弁 観念奔逸(考えが次々と飛ぶ) 注意散漫・易刺激性 目標志向性の…
躁状態のときの症状 感情の障害自我感情が亢進して、自信に満ちて、気分は爽快で、意気揚々とします。好き嫌いの感情を露骨に現したり、意に沿わないと急にイライラして不機嫌になったり(易刺激性)、怒り出したり(易怒性)します。感情状態が抑制されず、…
双極性障害(躁うつ病)概念の変遷 クレペリンの躁うつ病一元論 エミール・クレペリン(1899教科書第6版)は、躁状態とうつ状態が交互に出現する病型のみならず、うつ状態や躁状態のみの単一型も含めて躁うつ病(Manisch-depressives Irresein)という疾病概…
治療抵抗性うつ病(treatment resistant depression)の定義 一般的には、作用機序の異なる2種類以上の抗うつ薬を十分量、十分期間用いたにもかかわらず、十分に改善しない大うつ病性障害 Thase & Rushの分類のステージⅡに相当 治療抵抗性うつ病と関連する…
治療抵抗性うつ病のステージ・モデル(Thase & Rush) 治療抵抗性うつ病と言っても、どの程度の治療抵抗性なのかを理解する上で、Thase & Rushのステージ・モデルは最初の取り組みです。注意しなければならないのは、適切な抗うつ薬治療として、抗うつ薬を十…
4月の新年度が始まり、期待に胸を膨らます人も多いわけですが、一方で新しい環境のなかで、緊張と不安も大きく、こころの変調をきたす人も少なくありません。 新しい環境という明らかなストレスで、不安感や憂うつ気分が一時的に出現して、社会生活や仕事、…
STAR*D試験の結果 STAR*D(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)試験は、米国国立精神衛生研究所(NIMH)が主導し、初期治療に反応しなかったうつ病患者に対して、どのような治療が有効であるかを検討した大規模臨床試験で、2006年より…