ボルチオキセチン(トリンテリックス®)
うつ病治療薬として、2013年に米国及び欧州で承認され、2019年日本でも承認され、2019年4月時点では世界80カ国以上で使用されている。
これまでにない3番目の新しいタイプの抗うつ薬
- 再取込み阻害薬
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- 受容体作動薬
- 再取り込み阻害・受容体調整薬→ボルチオキセチン
- S-RIM(Serotonin-Reuptake Inhibitor & Modulator)
作用機序
セロトニン再取り込み阻害作用のほか、5HT1Aに対するアゴニスト作用、5HT1Bに対する部分アゴニスト作用、5HT1D・5HT3・5HT7に対するアンタゴニスト作用により、セロトニンの増加以外に、ノルアドレナリン、ドパミン、グルタミン、アセチルコリン、ヒスタミンなどの神経伝達物質も増加させる。
認知機能に対する作用
国内第Ⅲ相試験
- PDQ-5(注意/集中、回想記憶、展望記憶、計画/構成の認知機能ドメインを評価する自記式問診表)で、プラセボに対して有意な改善を示した。(Inoue T, et al: Psychiatry Clin Neurosci. 2020; 74(2): 140-148.)
海外試験
- FOCUS試験:数字符号置換検査(DSST)、聴覚性言語学習検査(RAVLT)の学習および記憶におけるスコアにおいて、プラセボに対して有意な改善を示した。また、PDQ合計スコアとそのサブスケールスコアである注意/集中、展望記憶、計画/構成、回想記憶のいずれにおいてもプラセボに対して有意な改善を示した。(McIntyre RS, et al: Int J Neuropsychopharmacol. 2014; 17(10): 1557-67.)
- CONNECT試験:DSSTスコア、PDQスコアおよびUPSA Composite(ロールプレイにより日常生活技能を測定)スコアにおいて、プラセボより有意な改善を示した。また、パス解析によって、DSSTの改善は、抑うつ症状の改善に伴う間接的な効果(25%)よりも直接的な効果(75%)であることが示された。(Mahableshwarkar AR, et al: Neuropsychopharmacology. 2015; 40(8): 2025-37.)
CANMAT うつ病の臨床的特徴やディメンションによる推奨
MAO, monoamine oxidase; SNRI, serotonin and noradrenaline reuptake inhibitor;
SSRI, selective serotonin reuptake inhibitor; TCA, tricyclic antidepressant.
a: DSM-5 specifiers. b: Comparisons only with placebo.
Can J Psychiatry.61(9): 540–560, 2016.から引用作成
※認知機能の改善作用があり、高齢者のうつ病、脳卒中や認知症におけるうつ状態に対しても有用かもしれない。
新規抗うつ薬のCYP阻害作用
※ボルチオキセチン自体は、CYPに対する阻害作用がほとんどないため他の薬剤の血中濃度への影響は少ない。
新MANGA Study
Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder:a systematic review and network meta-analysis
Data are reported as ORs in comparison with reboxetine, which is the reference drug.
1=agomelatine. 2=amitriptyline. 3=bupropion. 4=citalopram. 5=clomipramine. 6=desvenlafaxine. 7=duloxetine. 8=escitalopram. 9=fluoxetine. 10=fluvoxamine. 11=levomilnacipran. 12=milnacipran. 13=mirtazapine. 14=nefazodone. 15=paroxetine. 16=reboxetine. 17=sertraline. 18=trazodone. 19=venlafaxine. 20=vilazodone. 21=vortioxetine. 22=placebo.
Cipriani A, et al: Lancet. 391(10128), 2018.
※プラセボと比較すると21種の抗うつ薬すべてが有効。下図の実薬同士の比較では、ボルチオキセチンが有効性と受容性(脱落率からみた安全性)で最もバランスがとれていて、使いやすい抗うつ薬ということになった。(ただし、この研究は出版バイアスが高いことを留意する必要がある)
CANMATにおける新規抗うつ薬(本邦承認薬)の副作用発現頻度
Kennedy SH, Lam RW, Lam RW, et al, The Canadian Journal of Psychiatry, 61(9), 2016から引用作成
※悪心については、他の抗うつ薬と大差がないが、性機能障害が少ない。また、血中半減期が、約67時間と長いため中断症状が起こりにくい。ただし、中止の場合は漸減してからの中止が望ましい。