血管性うつ病の概念提出の経緯
高齢者うつ病では、無症候性(症状が現れない)脳梗塞が多いということが判明して、血管性うつ病という概念が提出されています。その経緯について説明します。
- Krishnanら(1988)は、高齢うつ病者が健常対象者に比してT2強調画像による白質高信号(white matter hyperintensities: WMHs)が有意に多いということを報告し、彼らは当初その病態を動脈硬化性うつ病(arteriosclerotic depression)と命名しました。
その後Coffyら(1990)、Dupontら(1990) も相次いで同様の報告をしました。
- 本邦においても、当時広島大学所属のFujikawaら(1993)が、65歳以上発症のうつ病者の大多数に潜在性脳梗塞(silent cerebral infarction)が皮質および皮質下に認められると報告し、彼らはそれを脳卒中前うつ病(pre-stroke depression)と命名しました。
- そのような経緯の中で、1997年最初に報告したKrishnanらとAlexopoulosらの協議によって、多発性脳梗塞による血管性認知症(vascular dementia)の概念に合わせる形で血管性うつ病(vascular depression)の概念が提唱されました。
同年、両者から以下の診断概念・基準を含めた報告が提出されました。
血管性うつ病の分類
- KrishnanらとAlexopoulosらの両者とも、血管障害を基盤とするうつ病全体を血管性うつ病として、明らかな脳卒中後に発症する脳卒中後うつ病(post-stroke depression: PSD)をその中核に置いています。
- Krishnanらは、高齢発症でMRIで無症候性脳梗塞を確認できるものを、MRIで規定される血管性うつ病(MRIーdefined vascular depression)としました。
- 一方、Alexopoulosらは、必ずしもMRI検査をしなくても、65歳以上発症で、血管障害の危険因子、例えば、高血圧、脂質異常症、心筋梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の既往などがあれば、すでに脳血管の変化は起こっていると考え、臨床的に規定される血管性うつ病(Clinically defined vascular depression)として、やや予防医学的側面の強い幅広い診断基準を提案しています。これはアメリカでは必ずしもMRIがルーチンで行えないということも背景にあるようです。
したがって、血管性うつ病には現在2つの診断基準が存在しています。
(参考)
MRI-defined vascular depressionの診断基準(Steffens DC, Krishnan KR: Biol Psychiatry43 1998.)
Clinically defined vascular depressionの診断基準(Alexopoulos GS et al: Am J Psychiatry 154,1997.)