アパシーとは?
- 脳卒中後などには、うつ症状と混同されやすい、自発性の低下を主体としたアパシーという病態が出現することがあります。アパシーの語源はギリシャ語のapatheiaという語に由来し、感情(pathos)の欠如を示しますが、精神神経学用語集では「無感情」と訳されています。
アパシーの定義
- Marinは、アパシーを目標志向性の行動、認知、情動の減退であり、意識障害、認知障害、情動障害によらない一次的な動機の欠如であり、感情、情動、興味、関心が欠如した状態であると定義し診断基準を提示しました。
- 上記の定義は、いわゆるprimary apathy(一次性アパシー)を示していますが、うつ病や統合失調症などの機能性精神疾患で出現する自発性低下も(二次性)アパシーとして幅広く捉える場合もあるため、混乱を避けるためには、例えば、うつ病性アパシー(depressed apathy)などとして議論する必要があります。
抑うつとアパシーの相違点と共通点
- Marinらは、18項目のアパシー評価スケール(apathy evaluation scale:AES)を作成し、アルツハイマー病と右半球病変の脳卒中では、うつ症状とは無関係にアパシー得点が高く、左半球病変の脳卒中、大うつ病では、うつ症状が強いほどアパシー得点が高いことを示し、アパシーと抑うつは臨床的に独立した症候群であると主張しました(Marin RS, 1994)。
- Starksteinらは、AESを短縮した14項目の修正版を作成(0-42点、14点以上をアパシー)して、アパシーは大うつ病に合併することが多く、アパシーがあると認知機能やADLがより障害されること、内包後脚部位の損傷との関連を示しました(Starkstein SE, et al, 1993)
- 本邦では、小林らが、Starksteinの修正版AESの日本語版「やる気スコア」作成(16点以上をアパシー)して、脳卒中後には抑うつよりもアパシーの要素が大きいこと、アパシー症例では両側前頭前野の血流が低下し認知機能も抑うつではなくアパシーの程度と相関を示し、脳卒中後のアパシーは血管性認知症の前段階としても注目する必要があると指摘しています。また、Hamaら(2007)は、脳卒中後の機能回復については、抑うつよりもアパシーの方が悪影響を及ぼすことを示しています。
- やる気スコア(島根大学神経・血液・膠原病内科版)
前頭葉の機能局在とアパシー
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情動的-感情的処理プロセスの障害
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認知的処理プロセスの障害
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自動活性化処理プロセスの障害
- LevyとDuboisは、上記のような責任病巣によって質的に異なったアパシーが存在することを提示しています。(Levy R, Dubois B: Cereb Cortex 16, 2006.)
抑うつとアパシーの鑑別
- 抑うつの意欲低下は、やりたくてもできないのに、アパシーは,やりたいという意欲そのものが起こらない(私見)。
- 抑うつは自己の状態に対して悩みますが、アパシーは無関心で悩まない。
- おそらく、この点が鑑別点として一番重要だと思います。
- SSRIなどのセロトニン作動薬は、抑うつを改善させますが、アパシーに対する効果は乏しくドパミン作動薬やアセチルコリン作動薬がアパシーを改善させます。
- 傍辺縁系の神経伝達物質機能のアンバランスが抑うつ、傍辺縁系と皮質の機能的断裂がアパシーを引き起こすという仮説( Levy ML, 1998)。
- 抑うつは眼窩前頭皮質、アパシーは右前帯状回の体積減少と関連(Lavretsky H, 2007)。
- アパシーは、右半球病変と皮質下病変で多い(Andersson S, 1999,Kimura M, 2012)。
- アパシースケールで捉えられるアパシーは、二次性も含めた幅広いアパシーであり、一次性アパシーとうつ病性アパシーは、対応も異なることからその鑑別は重要になります。