脳卒中後うつ病(post-stroke depression: PSD)
- 脳梗塞後でも脳出血後でも、うつ状態の症状や頻度には大きな差異がないため、脳梗塞後も脳出血後もあわせて脳卒中後うつ病として検討していることが多い。
- 脳卒中後に以下のような症状があったらPSDを疑う
- 興味がわかない
- 落ち込みが強い
- 不安で仕方ない
- しばしば泣く
- 寝てばかりいる
- やる気が起きない
- リハビリに行きたがらない
- ぼーっとしている
- つらい、申し訳ないなど悲観的な言動
2つの病因論的視点
脳卒中は、他の身体疾患と違って、脳の実質が損傷されるため、当初から以下のような2つの病因論的視点がありました。
1960年代頃までは、わかりやすい心因説が優勢に議論が進められてきましたが、その後以下のような研究成果が示され、脳傷害説の議論が活発になりました。
Folsteinらの系統的研究成果(Folstein MF, et al: J Neurol Neurosurg Psychiatry 40, 1977)
- 年齢、性別、身体機能障害などの程度を一致させた整形外科の患者さんと脳卒中の患者さんを比較しました。
- その結果うつの頻度が、整形の患者さんでは10%であったのに対して、脳卒中の患者さんでは45%もの人がうつになることが示されました。
- 身体機能障害の程度を一致させた比較ですので、脳卒中後の身体機能障害に対する心理的反応ということだけでは十分説明できず、やはり脳の直接の損傷がうつ状態の発現に関与しているという結論に至りました。
Robinsonらの左前頭葉傷害仮説(Robinson RG, et al: Ann Neurol 9, 1981. Robinson RG, et al: Brain, 1984)
- 脳卒中後のうつについての報告は1900年代初頭からありますが、Robinsonn らは、脳の病変部位とうつ病の発症頻度や重症度との関係をはじめて報告し、感情障害の脳の局在を探究するうえでも注目を浴び、国際的関心が惹起され、今日に至るまで議論が続いています。
(参考)
Robinson教授の略歴
- 1967-71年 コーネル大学医学部
- 1972-73年 コーネル大学医療センターレジデント
- 1973-75年 アメリカ国立衛生研究所(NIMH)神経薬理学研究室準研究員
- 脳梗塞ラットの研究:大脳半球の左右分化(Nature 255,1975)
- 行動的、生化学的に左右で異なる(Science 205,1979)
- 1975-77年 ジョンズ・ホプキンス大学医学部精神科・行動科学教室研究員
- 1977-80年 同助教授
- 1981-85年 同准教授
- 1985-90年 同教授およぴ神経科学教室教授
- 1990-11年 アイオワ大学医学部精神医学教室主任教授
(おまけ)
アイオワ大学病院
アイオワ大学研究棟
研究室内