双極性障害(躁うつ病)概念の変遷
クレペリンの躁うつ病一元論
- エミール・クレペリン(1899教科書第6版)は、躁状態とうつ状態が交互に出現する病型のみならず、うつ状態や躁状態のみの単一型も含めて躁うつ病(Manisch-depressives Irresein)という疾病概念を確立しました。
アメリカ精神医学会のDSM診断
- DSM-Ⅲ(1980年)
・気分障害のなかで、うつ病性障害と双極性障害が区分され、双極性障害が独立しました。 - DSM-Ⅳ(1994年)
・気分障害のなかで、双極性障害が、双極Ⅰ型障害(躁病エピソードと大うつ病)と双極Ⅱ型障害(軽躁エピソードと大うつ病)に分離されました。
・抗うつ薬やECT(電気けいれん療法)による躁・軽躁エピソードがあっても双極性障害とは診断できませんでした。⇒アキスカルは批判し、双極Ⅲ型というタイプに分類しました。
・混合性エピソードの診断が、躁病エピソードの基準と大うつ病エピソードの基準を少なくとも1週間連続して、ともに満たすということで、診断基準を満たすことがほとんどありませんでした。 - DSM5(2013年)
・気分障害のカテゴリーがなくなり、うつ病性障害と双極性障害が独立した疾患カテゴリーになりました(双極性障害は遺伝的にも治療的にも、より統合失調症に近い疾患と位置付けられたため)。
・抗うつ薬やECTによる躁・軽躁エピソードがあれば、双極性障害と診断できるようになりました。
・混合性エピソードをなくし、混合性の特徴(mixed features)の特定用語を導入し、混合状態(mixed states)をより広く診断できるようになりまた⇒躁病エピソードに少なくとも3つの抑うつ症状の混入、うつ病エピソードに、少なくとも3つの躁症状の混入。
アキスカルの双極スペクトラム(soft bipolar spectrum)
- ハゴップ・アキスカルは、DSMなどによる気分障害の単極性と双極性の二分法に異議を唱え、クレペリンの広範な躁うつ病の一元論への回帰を主張するネオ・クレペリン学派の一員で、双極スペクトラム(soft bipolar spectrum)概念を提唱し、双極性障害をさまざまなサブタイプに分類しました。
- 1999年には5種類のサブタイプであったものが、現在までに11種類のサブタイプまで増えていて、あまりに独創的過ぎるという批判もあります。
Ghaemiの双極スペクトラム障害の診断基準
- スペクトラム診断の提唱者は、双極性障害の見落としをなくし、閾値下の軽躁状態を掘り出すことで、将来双極性障害に移行する一群を早期に検出し、不用意な抗うつ薬投与を防ぎ、自殺や不安定化を予防できると主張しています。
- Unipolar Spectrum:単極性スペクトラム、Dysthymia:気分変調症、Single MDD:単一エピソードの大うつ病、Chronic MDD:慢性大うつ病、Atypical MDD:非定型大うつ病、Psychotic MDD:精神病性大うつ病、Recurrent MDD:反復性大うつ病、BP-Ⅱ:双極Ⅱ型障害、BP-Ⅰ:双極Ⅰ型障害、Cade's Disease:リチウムの効果を見出したJohn Cadeから命名されたリチウムが奏功する古典的な躁うつ病