認知症にはアルツハイマー病を中心とする変性性認知症と血管性認知症があります。
アルツハイマー病とレビー小体型認知症について記載しましたが、もう一つ重要な変性性認知症が前頭側頭型認知症です。
前頭側頭型認知症(Front-temporal Dementia: FTD)
昔ピック病、その後FTD、いまはFTLDの中の1つ
1996年Manchesterグループは、前頭-側頭葉に原発性の萎縮を有する前頭側頭葉変性症(Fronto-Temporal Lobar Degeneration: FTLD)という包括的な概念を提唱しました。
FTLDの3亜型
- 人格変化と行動障害が中心であるFTDと2つの失語症候群に分類。
- 失語症候群の中には、言葉を発したり理解するのが難しくなる「意味性認知症」(semandc dementia: SD)と言葉が流暢に話せなくなる「進行性非流暢性失語」(progressive non-fluent aphasia: PA)があります。
FTDの臨床的特徴
- 人格変化や行動異常で気づく
- 物忘れなどは少ないので、認知症と気づかないことも多い。
- 病識の欠如
- 自分の変化に全く気付かないことが多い。
- 配慮の欠如やルール無視
- 周囲の状況がわからず、思い通りの行動をしてしまいます。
- 例えば万引き、交通違反などをしてもまったく気にしなくなります。
- 常同的・強迫的行動
- こだわりが強くなり、毎日決まった時間に決まったことを行ったりするようになります。
- 無関心・自発性低下
- 身だしなみに無頓着、周囲にも関心を示さなくなったりします。
- 考え無精
- 質問に対して、よく考えずに返答したり、無視したりします。
- 食行動異常
- 同じもの(特に甘いもの)ばかり食べたり、手に取るものをすべて口に運ぼうとしたりするようになります(口唇傾向)。
- 若年発症(65歳未満)が多い
- 脱抑制型、無欲型、常同型と3つのタイプに分類されることがあります。
先日奥様に連れられてきた62歳の男性は、以前はきれい好きで、几帳面だったのに、入浴もあまりしなくなり、身だしなみにも無頓着になって、話しかけても、真剣に答えないで、身勝手な行動が増えたということで受診されました。その他にも、毎朝散歩に出かけて、公衆便所で用を足すようになり、自宅の便所を使わなくなったので、ちゃんと自宅のトイレを使って欲しいと言ったら急に怒りだして、全く以前の夫と人が変わってしまったということでした。臨床的には典型的なFTDで、SSRIのフルボキサミンを投与して、自宅トイレも多少使用するようなりましたが、基本的にはあまり変化がなく、徐々に動きが少なくなって無為的になってしまいました。
新聞などで、50代の会社の社長が万引きとか、痴漢行為で捕まったなどという報道があると、この人はFTDになったのかもとか考えてしまいます。
意味性認知症(semandc dementia: SD)
側頭葉の前方から底面が侵され、意味記憶が障害されます。とくに左側優位の高度の萎縮が多い。物の名前は出なくても、その物の使い方は理解しています。仮名文字は読めますが、漢字が読めなかったりします。
進行性非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia: PA)
左側優位のシルビウス裂周辺が侵され、前方言語野周辺が障害されます。言語理解は保たれますが、発語の流暢性が障害されて、最後には話せなくなります。病識は比較的保たれており、しゃべりにくくなったことなどを自覚しています。
(参考)
DSM-5の診断基準
前頭側頭型認知症または前頭側頭型軽度認知障害
Major or Mild Frontotemporal Neurocognitive Disorder
A.認知症または軽度認知障害の基準を満たす.
B.その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する.
C.(1)または(2):
(1)行動障害型:
a.以下の行動症状のうち3つ、またはそれ以上:
1.行動の脱抑制
2.アパシーまたは無気力
3.思いやりの欠如または共感の欠如
4.保続的、常同的または
強迫的/儀式的行動
5.口唇傾向および食行動の変化
b.社会的認知および/
または実行能力の顕著な低下
(2)言語障害型:
a.発語量、喚語、呼称、文法、または
語理解の形における言語能力の顕著
な低下
D.学習および記憶および知覚運動機能が比較的保たれている.
E.その障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患、または全身性疾患ではうまく説明されない.
確実な前頭側頭型認知症は、以下のどちらかを満たしたときに診断される.
それ以外は疑いのある前頭側頭型認知症と診断されるべきである:
疑いのある前頭側頭型認知症は、遺伝子変異の証拠がなく、神経画像が実施されなかつた場合に診断される.
症状の発展と経過
一般的には50代で発症するが、発病年齢は20~80代。病気は徐々に進行するが、典型的なアルッハイマー病より生存期間が短く進行が速い.
遺伝要因と生理学的要因
約40%が早発性認知症の家族歴を有し、約10%が常染色体優性遺伝型を示す。多くの遺伝要因が確認されており、微小管関連タウ蛋白(MAPT)をコード化する遺伝子、グラニュリン遺伝子、C9ORF72遺伝子の変異などがある.
(参考)
FTLDの分子病理学的分類(Snowdon et al, 1996)