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ジャネの精神病理学

ジャネの精神病理学

  

ジャネの精神病理学の3期

  • 第1期
    • 『精神自動症』(1889)、『ヒステリー患者の精神状態』(1911)、『諸強迫と精神衰弱』などによるヒステリー論および精神衰弱論。
  • 第2期
    • 1920年代の心理学を体系化した時期
    • 『傾向の断層的秩序』の8段階の特徴
      1. 反射的行動の段階
      2. 知覚的行動の段階
      3. 社会的行動の段階
      4. 知的傾向。道具を使用し、道具を製作しうる段階
      5. 確言的信念と意志の段階
      6. 反省的信念と意志の段階
      7. 理性的傾向の段階
      8. 実験的創造的傾向の段階
  • 第3期
    • 『苦悩から忘我へ』(1926-28年)が代表
    • 対人関係の調節機能という見地から、『愛と憎しみ』(1932年)といった基本的な対人的感情を論じ、分裂病統合失調症)の諸症状を分析した。

 

3期を通したジャネ精神病理学・心理学に共通した根本思想の特徴

 

  • ジャネ精神病理学の特徴は、徹底的に行動心理学に終始していること。
  • デリケートな人間性の機微に属する事柄、愛や憎しみ、また分裂病統合失調症)の精神病理の中心課題になってきた幻覚や妄想についても、行動心理学の立場から論じた。
  • ジャネの行動心理学は、感情や意識現象もとりあげ、行動という見地から考察
    (ワトソンは、意識という主観が介入する現象を排除して、外界の刺激に反応する行動だけを観察と記述の対象にとりあげた)
  • ジャネは、自分の心理学を、「生理学から独立した別種の人間科学」と考え、「生理学は、有機体の内部における内的適応の科学であり、他方心理学は、外堺への適応の科学であり、空間におけるすべての移動、生物たらしめうるすべての運動を研究する学問である」と述べている。
  • ジャネ精神病理学は終始、臨床から遊離することがなかった。

 

ジャネの感情論

 

感情も、言語で表現しがたい内面的体験ではなく、行動心理学に分析可能なものであり、感情は行動を調節する心理的・生理的機能であり、基本型をつぎの4型に分けた。

  • 喜びの感情ないし凱旋の感情
  • 努力の感情
  • 疲労の感情
  • 敗北の感情ないし悲哀の感情

 

愛と法悦の感情

 

愛の感情は喜びの感情に属する。ジャネは、「興奮した陶酔的な愛の信仰と法悦が、一時的にせよ心理的力の高揚と心理的緊張の水準の上昇を生ぜしめる」と考え、宗教の本質的機能をこの点に求めた。

一般に、ある宗教における神や仏は、それを信じる者に、平安と慰めを与え、信仰の喜びを与えるだけでなく、祈りと呪術による陶酔的な愛、あるいは苦悩の状態を解脱せしめる法悦をとおして、勝利と歓喜の状態をもたらしてくれる。

このような愛と法悦の感情について、フロイトは、性的欲求の防衛ないし昇華と考えるであろうが、ジャネは、「確言的信念の段階における社会状況への参加をめぐる諸感情と考えているのである。

 

分裂病統合失調症)性対人的感情論

 

人と人とのあいだで生じてくる感情が、自他のいずれに所属しているかは、意外にもデリケトトな問題である。ある人に愛着の気持や憎しみの気持をもっているとき、状況次第で相手が自分に好悪の感情を抱いているように感じる。

ジャネはこの点に注目して、「自分の他者への感情を、あたかも他者が自分に抱いているごとくに感じる機制」を「社会的客観化」と呼び、反対に「相手が自分に抱いている感情を、自分自身が相手について抱いているごとくに感じる機制」を「社会的主観化」と呼んだ。

対人的状況において、心理的力が著しく減少し、敗北の感情に支配されてくると、社会的客観化という対人的調節機能(感情)が優位を占めるようになり、逆に相手との関係において、心理的力が増大し、愛の感情にあふれてくると、社会的主観化の感情が優位を占めるようになる、と考えた。共感とか同情といった感情は、相手を愛しているときに起こりうる主観化の感情なのである。

嫉妬の感情は複雑であり、恋仇に対して敗北の感情を抱かざるを得ないが、それでもなお恋人を愛せざるを得ないのが、嫉妬者の宿命である。すなわち嫉妬者は、恋仇の勝利と喜びの感情を主観化し、かつ恋人の恋仇への愛情をも主観化するのである。

これと反対に敗北の感情が人をおおい、心理的力が減少して、対人状況において受身の態度になると、人は、他者についての敗北と憎しみの感情を客観化する。

被害感情や注察観念がその典型例であり、この傾向が強くなると、臨場感情(誰かがどこかにいて、自分に関心を払っている)、追跡妄想、さらには言語性幻聴などの分裂病統合失調症)性諸体験が生じてくる。

言語性幻聴は、「対象なき聴覚」と定義されているが、その精神病理学的本質は、知覚の異常ではなく、ジャネがいうように、「一方的に他者が自分に語りかけてくる」という対人状況の病態なのである。この見解は、サルトルの「まなざし」という人間学的他者論に影響を与えた。また、分裂病統合失調症)症状全体についての了解人間学(ツット)の立場からの分析にも決定的な影響を与えた。

ジャネはさらに、対人関係における能動的行動と受動行動全般にわたって、以上に述べたような客観化と主観化の混乱の様相を分析し、かれの晩年の分裂病統合失調症)性対人的感情論を展開した。

すなわち集団的行動における能動的行動と受動的行動を、「命令と服従」、「話すと聞く」、「公開行為と秘密行為」、「露出と羞恥」、「与えると盗む」といった具体的な行動の対応をひとつ一つ分析していくことによって、受動的対人的感情の様相を明らかにし、分裂病統合失調症)性体験の真相に迫っていった。

命令と服従の混乱は、作為体験とか影響感情の形をとり、また話す態度から聞く態度への客観化が幻聴を生ぜじめ、公開行為と秘密行為の混乱が、臨場感情や注察妄想など、ひろく分裂病統合失調症)性諸体験となっていくのである。このような分裂病統合失調症)性対人的感情論は、今日もなお意義を失っていない。

同時代のフロイトに比べて、ジャネ精神病理学は、エーを除いて、ほとんどその後継者をもっていないのは、ジャネが、フロイトの「個人の生活史の分析」について、十分な理解と評価を示さなかったからかもしれない。しかしジャネの精神病理学、とりわけ宗教精神病理学および分裂病統合失調症)の精神病理学の領域において、十分な意義をもっているように思われる。

 

(萩野恒一:現代精神病理学のエッセンス-フロイト以後の代表的精神病理学者の人と業績-参照)