- クレッペリンの内因性精神病概念の確立後、様々な角度からうつ病の類型化や病因論などが検討され、内因性対心因性、精神病性対神経症性といった二分法的な議論も活発に展開されました。
また英米圏では、神経症性うつ病は精神病性うつ病と対置され精神病レベルには至らない神経症レベルにとどまる軽症のうつ病を指すのが一般的でした。
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ロンドン学派とニューカッスル学派の論争
英国ではこの精神病性と神経症性の枠をめぐってロンドン精神医学研究所とニューカッスル大学の間に激しい論争が引き起こされました。
ロンドン学派は、うつ状態は細分化できないひと続きのものだとし、うつ病患者は一つのディメンションにそってずらりと並べることができ、一方の端に内因性があり、もう一方の端に神経症的な症状を呈する群があるとしました。
これに対して、ニューカッスル学派はヨーロッパの精神医学の伝統的立場をとり、内因性と神経症性うつ病は不連続なカテゴリーだとしました。
この議論は現在に至っても、どちらのモデルが正しいかという結論は出ていません。
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うつ病の状況論と病前性格論
1950年代から内因性か心因性かという二分法は臨床にそぐわないということが、主にドイツ語圏で言われ始め、内因性うつ病を誘発する特定の状況が注目されるようになりました。その結果以下のようなうつ病の概念が提出されました。
荷おろしうつ病(1951)
・緊張をしうるようなストレス状況から解放されたときに起こるうつ病
根こそぎうつ病(1951)
・大災害や迫害などによって生活の基盤が失われたときに起こるうつ病
消耗性うつ病(1954)
・課題や義務を自らに課し、全てに全力投球するが、次第にその課題が自分の能力を超え、休息もできなくなって起こるうつ病
実存うつ病(1954)
・人間は自分の存在を発見、創造するために現在から未来に向かって進むが、その人の価値領域が極端に狭められたときに起こるうつ病これらから、内因性うつ病の発病に状況要因が単に契機としてではなく病因的にも関与しうることが認められるようになりました。
さらに、以下のような病前性格論的視点が重視されるようになり、二分法的な考え方に疑義をもたらし、内因性うつ病においても心因的状況が存在することから、内因性と心因性の枠組みの境界が不鮮明になったことは否めません。
循環気質(クレッチマー、1921)→躁うつ病に親和性
・基本特徴:社交的、善良、情味深い、躁的成分(明朗、活発)、うつ的成分(物静か、柔和)
メランコリー親和型(テレンバッハ、1961)
・几帳面、生真面目、強い義務責任感といった秩序性と人と争えないといった対他的配慮性が強い→周囲への罪責感→弱力性
・メランコリー親和型と状況因→単極性うつ病
執着気質(下田光造1943)の再評価
・熱中性、徹底的、義務責任感が強く、一度感じた感情がさめることなく持続→強力性
笠原・木村の分類(1975)
・病像、病前性格、発病状況、治療への反応、経過、年齢など
・性格反応性、循環性、葛藤反応型、偽循環病性、悲哀反応