神経症(ノイローゼ)
神経症については、ドイツ語のノイローゼ(Neurose)が、一般的にもよく使われていると思いますが、1980年アメリカ精神医学会の診断分類であるDSM-Ⅲで、神経症という用語を廃したため、現在、診断名として用いられることは少なくなっています。
概念の変遷
18世紀前半、スコットランドのカレンが神経症(neurosis)という言葉を、神経系一般の疾患に対して用いました。その後神経症は器質的病変のないものを示すようになりましたが、19世紀の後半にフランスのシャルコーが外傷に伴う精神的原因によるヒステリーを現し、オッペンハイムが脳の機能的障害を重要視した外傷神経症という概念を提唱しました。その後シャルコーのヒステリー研究とその流れを汲むジャネやフロイトによって、それぞれ独自の学説が展開されました。とくにフロイト以降は心因説が中心になりましたが、その成立については、環境、対人関係を重視するもの、性格特性を重視するもの、あるいは心身相関とくに自律神経内分泌機能との関連や条件反射の観点から考察するものなど多種多様な見解があります。
神経症は心因反応の一病態
心因については、特定の出来事というより、その受けとめ方であって、性格要因、環境要因、(身体要因)によって、内的抗争(葛藤)から不安が生じて準備状態が形成されます。そこになんらかのストレスが直接的な心因となり症状が出現します。
性格要因
- 内的抗争(葛藤)を起こしやすい
- 周囲の出来事に敏感で、心の中で悩むが外に発散できず、物事にとらわれる
- 劣等感が強いのに、外面的には取り繕い、完璧性で几帳面、良心的ときには強がりをみせる(過代償)
- 不安を適切に処理できない
- 人格が未熟で依存的、例えば相手に対して憎しみを抱いていても、うまく解決できず、なおその相手に依存しますが、欲求は満たされず、不安が増強してしまう
環境要因
- 災害や事故のように、突発的に外部から一方的に起こるもの
- 強い恐怖、驚愕、悲哀など原始的な反応(神経症からは除外)
- 生活の場における特定の対人関係などによって持続するもの
直接的な心因
- 例えば、敏感な女性で、恋人の浮気について不満を持ちながらも我慢していましたが、些細なことで、その恋人から注意されたことが誘因になり症状が出現。
- 心気的な傾向の強い人では、ちょっとした動悸や痛みから症状が出現。
- 医療機関の検査で、検査値異常をこのままだと大変なことになるとか、誇張して告げられ不安感が強くなり、神経症症状に発展(医原性神経症)。
神経症は、心因性疾患であり、その人の性格要因と環境要因から準備状態が形成され、何らかのストレス(心因)によって様々な症状が引き起こされます。誰にでも起こりうるものですが、その症状による苦痛が非常に強かったり、長期間持続する場合は、神経症として治療が必要になります。
神経症の主な種類(前景にたつ症状によって分類)
- 不安神経症
- 理由もなく激しい不安におそわれ、動悸や頻脈など身体の反応も伴う
- 抑うつ神経症
- 気分がふさぎ、重苦しい、悲観的な気分が続く
- 心気神経症
- 実際には病気でないのに病気であると思い込む
- 強迫神経症
- 自分では不必要、不合理であるとわかっていても、ある考えや衝動、行為などをやめることができない
- 離人神経症
- 以前の自分と違って自分が自分でないように感じたり、自分の身体や頭が自分のものでないように感じる。また周囲の景色や人を見ても実感がわかない(現実感喪失)
- ヒステリー
防衛機制
神経症理論の中で、フロイトの防衛機制は重要であり、人間はストレスに曝されると自分を守るために多くは無意識的に、さまざまな防衛機制を働かせます。防衛機制によって自己の安定を保つわけですが、一方で防衛機制に失敗したり、防衛機制そのものが、さまざまな症状として出現します。
- 抑圧
- 不満・不安などを無意識の中に閉じこめる最も根本的な防衛機制。
- 置き換え
- ある対象に向けられるべき感情を別の対象に向ける。
- 昇華
- 満たされない欲求を有用な仕事などに向ける。
- 投影(投射)
- 自己の感情や欲求を他人や物に向きかえる。自己の弱点や欠点などを他人の中に見出して、その他者を攻撃して満足を得る。
- 反動形成
- 欲求が満たせないとき、その欲求と正反対の欲求を発展させる。
- 合理化
- 自分なりにもっともらしい理屈をつけて自分を納得させる。
- 退行
- 低い発達段階に戻って(こども返り)、未発達な行動を取ることで、当面の困難を回避する。
- 取り入れ(同一化)
- 優れた対象の真似をして満足を得る。
- 補償,分離,空想,否認,打ち消しなど