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ヒルガードの新解離理論

ヒルガードの新解離理論

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アーネスト・ヒルガード(Ernest Hilgard, 1904 – 2001)

催眠による非意図的反応として、暗示によって腕が「勝手に」浮揚したり、眼瞼が「自然と」閉じたりするが、ヒルガードは心的解離によって生じると主張し、新解離理論を提唱した。

彼は、この解離を正常反応とみなし、認知機能の分割に起因し、さまざまな要素によって生じるが、催眠はその一つに過ぎないと述べている。

 

認知システムは、認知制御構造という多数の個別要素から構成され、それらの働きは中央制御構造や統括自我によって常にモニター管理されていると考えている。全体を制御する統括自我は上部構造で、それに影響される個々の認知制御構造は下部構造というヒエラルキーを形成している。

 

催眠暗示は、統括自我に影響を与え、それによって認知制御構造は、中央制御構造から解離されてしまうというのが、新解離理論である。

つまり、腕の上げ下ろしという行動は、通常、特定の認知制御構造が機能しており、統括自我は常にその動きをモニターし管理をつかさどっている。腕を動かす行動を「意図的に」認識できるのは、この統括自我の働きによるものである。催眠では、腕が挙上するという暗示が統括自我に直接働きかけ、それによって腕の認知制御構造は一時的に中央制御システムから乖離されてしまう。この結果、腕の動きは統括自我で感知されず、そのため被験者には腕が「自然に」挙上したと感じられるのである。

また、解離による痛みのコントロールについては、統括自我への催眠暗示によって認知制御構造が解離されると、痛みの知覚は「意識された痛み(顕在痛)」と「意識されない痛み(潜在痛)」とに分離される。顕在痛とは暗示によって鎮痛できた反応であり、潜在痛とは本来そのままの痛みであるが、これは催眠暗示なしでは意識化されない。この結果、被験者には緩和された痛み(顕在痛)のみが体験される。ここで、痛みの潜在とは何かということであるが、ヒルガードは「意識の分割」「隠れた観察者」という二つの新たな概念を新解離理論に補足した。すなわち催眠状態では、意識の分割が可能となり、通常の意識とは別の意識状態が現われ(意識の分割)、そこで生じた反応は「隠れた観察者」なる存在によってのみ認識可能となるという。その後の研究で、「隠れた観察者」は高催眠感受性の約50%にみられたとの報告がある。

ヒルガードは、催眠状態では、意識の分割が可能になり、通常の意識とは別の意識状態が現れると考え、催眠とは意識の解離による変性意識状態であると主張している。

この変性意識と隠れた観察者の概念は、社会認知理論のスパノスやリンなどから痛烈な批判を受ける。

(高石昇、大谷彰:現代催眠原論、金剛出版、2015.参照)