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古典的催眠

古典的催眠

1775年のメスメルの動物磁気の提唱から1894年のフロイトの催眠の放棄までの期間

メスメルと動物磁気(animal magnetism):メスメリズム (mesmerism)

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Franz Anton Mesmer(1734-1815)

18世紀中期は重力、化学反応、電気、磁気など自然科学上の発見が相次いだ時代である。メスメルは、1759年からウィーン大学で医学の勉強をして、 1766年「人体への惑星の影響」という博士論文を提出して学位を得る。ウィーン王室天文学者でもある僧侶ヘルから磁気を帯びた金属を人の前にかざすと治療暗示への感受性が高まることを教えられる。1774年彼は、ある女性患者に鉄を含む調合剤を飲ませて、患者の体内に人工的な干満を生じさせ、患者の体のあちこちに磁石を付けたところ、患者は体中に流れる不思議な液体の流れを感じ、数時間病状から解放された。彼は、磁石だけで治療できたとは考えず、人体は宇宙と同じ要素から成り立っていて、磁気の両極のように互いに体の半身が影響し合い、その磁気の平衡が乱れると病気になり、治療力は体の組織にもあると考え「動物磁気」命名し治療を開始する。他の人たちは、それをメスメリズム (mesmerism)」 と呼んだ。1775年聖職者で信仰療法家のヨハン・ヨーゼフ・ガスナーの行った悪魔払いについて、ガスナーは信仰によるものだとしたが、メスメルは、彼が高度な動物磁気を持っていた結果であると主張した。

メスメルは、暗い部屋で長いローブを着て音楽とともに現れ、患者の肩から腕に沿って手を動かす「パス」をしたり、金属棒で患者の体を摩擦する動作を繰り返すと、患者はやがて絶頂に達して、ヒステリー発作を起こし、治療の威力を印象づけたという。

しかし、1784年ルイ16世はフランス科学アカデミーの研究者による調査団を派遣し、調査の結果メスメルの主張する「動物磁気」は存在せず、患者の治癒は単に「想像力」の結果であると結論づけられる。結局メスメルは患者にも同僚にも見放され、あちこちを放浪したあげく、1815年メールスブルクで誰にも看取られずに死亡する。

メスメルのパス法は、体全体を何度も繰り返し触るという執拗なもので、射るような凝視、奇異な身振りを特徴としており、これが今日の催眠に漂う暗いオーラの一因にもなったと考えられる。