社交不安症は、日本では森田療法で有名な森田正馬が、「赤面恐怖の療法」(人文書院1935)として記述し、その後、対人恐怖症として古くから多くの研究がなされています。当初のDSMの社交不安障害が「不安を抱き、自分が恥をかくことを恐れる」という自己主体性が強いのに対して、日本における対人恐怖症は「不安を抱き失敗した場合に、他者を不快にさせてしまうのではないかという恐れ」で他者主体性が強いことが相違点でした。この相違は、自己の価値を他者から独立した存在としてとらえる欧米の「相互独立的自己観」と自己の価値を他者との協調としてとらえる東アジアの「相互協調的自己観」という文化的背景によるという指摘もあります(Markus & Kitayama, 1991)。2013年のDSM-5による社交不安症では、「自らが恥ずかしい思いをする」に加えて「他者から否定的な評価を受けることを恐れる」が盛り込まれ、対人恐怖症との差異がなくなり、同一の疾患概念としてとらえることが可能になりました。
※2008年日本精神神経学会は、「社会不安」という言葉は誤解も多いことから、より実態に即した「社交不安」に訳語を変更しましたが、いまだに両者が使用されています。
※日本人は、あがり症の人が多いといわれ、どこまでが性格で、どこから病気という線引きは難しく、病気と考えずに放置してしまうことも少なくありません。しかし、日常生活に支障が出ている場合は、社交不安症として治療を受けることで、生活の質(QOL)が改善しますので、以下のような病気としての認識も必要です。
社交不安症/社交不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)(社会恐怖:Social Phobia)の診断(DSM-5)抜粋
- 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する著しい恐怖、不安
- 例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる
- ある振る舞いをするか、不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)
- その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する
- 注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、社交的状況で話せないという形で、その恐怖、不安が表現されることがある
- その恐怖、不安、回避は持続的であり典型的には6カ月以上続く
- パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合
- 専門家の生活(例:音楽家、ダンサー、芸人、運動選手)で、 日常的に人前で話をする必要があるとき、典型的に生じる。日常的に人前で発表することがある仕事、学校、大学研究室の場面で現れることがある。
関連する特徴
- 社交不安症の人は、十分主張できない、過度に従順、会話を極端に抑制しようとすることがある。過度に硬い姿勢で、視線を合わせず、極端に小さな声で話すこともある。内気、引きこもり、会話では率直さに乏しく、自分のことをあまり明かさないこともある。
- 社会的接触がない職業を探す人があるが、パフォーマンス限局型ではこれは当てはまらない。
- 年長の成人では、振戦、動悸などの増悪が起こるかもしれない。赤面は社交不安症の目印となる身体反応である。
有病率
- 米国の12カ月有病率は約7%であるが、世界の大半の地域での12カ月有病率は0.5~2.0%とより低い。男性より女性の方が高い。
症状の発展と経過
- 発症年齢が8~15歳が75%。時に小児期における社会的抑制、内気として表れることもある。
- 発症にはストレスの強い、屈辱的な経験(例:いじめられる、人前で話しているときに嘔吐する)に引き続いたり、潜在的に徐々に発展することもある。
- 成人期の初発は比較的まれで、ストレスの強い、屈辱的な出来事、新しい社会的役割を要求される生活の変化(例:異なる社会的階級出身者と結婚する、昇進する)の後に発症しやすい。
併存症
治療
精神療法